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一覧へ戻る / 次のページへ 私にはお父様の望みをかなえる事はできない。 私にはそれだけの力が無いから。 だから私はお父様を眠らせようとした。 ひとつに戻ったお父様も眠る事を選んだ。 それでいい。 私もまた眠ろう、この子の中で。 願わくば、二度と目覚める事が無いように。 私が目覚めるという事は、お父様もまた目覚めるという事だから。 けれど。 「カミュちー?」 親友の少女が、この子に話しかける。 この子は故郷の方角の空を見上げ、呟いた。 「……おじさま?」 少女から渡された蜂の巣のカケラを、この子は地面に落としてしまう。 そして、この子の中で、私はひっそりと目を覚ました。 転移術? ううん、違う。それとはもっと異質な力の流れを感じる。 何が起きているのか、ここからじゃよく解らない。 けれど、ひとつだけ、なぜか確信できた事がある。 だから。 「……さようなら、お父様」 私はこの子の口を借りて、お別れを言った。 親友の少女も、理屈ではなく、本能的に何が起きたのかを察する。 「おと~さん……!」 それは誰の目にも留まらず、聞こえぬ場所で起こったはずの出来事。 けれどお父様に関わった人々は、親友の少女のように、それに気づく。 双子を従え、鉄扇を手に旅をする若者が空を見上げる。 「兄者……?」 戦場を渡り歩く美しき傭兵二人が空を見上げる。 「主様……」 「聖上……?」 皇の代理を務める武人が業務のかたわら、ふと窓から空を見上げる。 「……聖上」 無邪気に花畑で遊ぶ少女が空を見上げる。 「おろ~……?」 小さな村で墓参りをしていた少女が空を見上げる。 「……ハクオロ、さん?」 第1話 呼び出されるもの トリステイン魔法学院にて、春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 二年生になった生徒達が、次々に自分に相応しい使い魔を召喚していく。 しかし、彼女の出番になった途端、儀式は滞りを見せた。 学院内の広場の中、多くの生徒と、教師のハゲ頭が見守る中、 彼女は一人前に出て、恥をかきながらも懸命に詠唱を繰り返し、爆発を起こしていた。 もう何度笑われたのか解らないし、もう彼女の失敗に飽きてそっぽを向いてる者もいる。 それでも、まだ嘲笑を浮かべて彼女を見ている生徒は何人かいた。 しかしその中に、嘲笑ではない表情を浮かべてルイズを見守る赤毛の美女や、 彼女のがんばりを重々理解しているハゲ頭の教師などは、 彼女の成功を半ばあきらめながら、成功するという奇跡を期待して見守っていた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 この詠唱で、もう何度目だろうと彼女は杖を握りしめる。 「五つの力を司るペンタゴン!」 これを失敗すれば留年か落第か。 「我の運命に従いし」 今まで色んな魔法を唱えてきて、そのたびに成功して欲しいと強く願っていた。 けれど、今ほど強く願った事はない。 これで失敗してしまったら、もう、ここにいる事すら許されなくなってしまいかねない。 「"使い魔"を召喚せよ!」 だから、どうか使い魔を呼び出せますように。 神聖でも強力でもなくていい。 犬や猫でも構わない。 いっそネズミでもいい。学院長のオールド・オスマンの使い魔もネズミだし。 ホント、もう、何でもいいから、召喚されなさい! と、彼女は強く願った。 銀の光。 鏡のような、丸い銀の光が、彼女の前に現れる。召喚のゲートだ。 鳶色の瞳にその光を映してルイズは、純粋な驚きに目を見開いた。 感動は無かった。 強く強く願っていた事が起きたのに、それが信じられない。 信じていないから感動もできない。 それは赤毛の美女や、ハゲ頭の教師も同じだった。 赤毛の美女の異変に気づいて、その隣で本を読んでいた青髪の少女も顔を上げる。 だから真っ先に何が起きたのか理解したのは、その青髪の少女だった。 続いて、ルイズと、赤毛の美女キュルケと、ハゲ教師コルベールも理解する。 「成功、した……」 と、口にした瞬間、ルイズの胸に感動が湧き上がった。 キュルケも、コルベールも同様だった。 異変に気づいた生徒達は、感動ではなく、ただ驚くだけ。 小さな胸を震わせながら、ルイズは杖を握りしめて真っ直ぐにゲートを見つめる。 召喚の、サモン・サーヴァントのゲート。 後は、あそこから出てくる自分の使い魔をコントラクト・サーヴァントをすれば完璧だ。 いったい何が出てくるのか、自分の使い魔はいったい何なのか。 不安は無かった。期待と、すでに成功したも同然という歓喜が胸中を渦巻く。 そしてルイズの頬がほころぶと同時に――ゲートから、黒い霧が噴出した。 「えっ!? な、何っ!?」 黒い霧はあっという間にルイズの周囲に広がり、彼女を覆い隠す。 通常の召喚ではありえぬ異常事態にコルベールは慌ててルイズの元へ向かおうとする。 「ミス・ヴァリエール!」 だが黒い霧に阻まれ、中に入る事ができない。 魔法を詠唱しても黒い霧に呑み込まれるだけだった。 黒い霧の中で、いったい何が起こっているのか? ルイズは――いったい何を召喚したというのか! 空も地面も、周囲にいるはずのクラスメイト達や教師の姿も、黒い霧によって隠される。 外でコルベールが叫んでいるが、その声すらルイズの元には届いていなかった。 「な……何なの? 何なのよこれ? まさか、また……失敗しちゃったの?」 期待も歓喜も、不安という霧に呑み込まれて消え去り、ルイズは後ずさりをした。 「み、ミスタ・コルベール! あの、どうすれば……ミスタ・コルベール!?」 助けを求めて声を張り上げても応えるものは無かった。 いや――あった。 「我ガ眠リヲ妨ゲタノハ汝カ、小サキ者ヨ」 重厚な、聞くだけで気圧される人外の響きにルイズは肩をすくめる。 「だ、誰!?」 「我ガ眠リヲ妨ゲタノハ汝カ、小サキ者ヨ」 声は、頭上から聞こえた。 ハッと見上げてみれば、黒い霧の中、光る一対の双眸が自分を見下ろしていた。 十メイルはあろうかという巨躯が、ゲートのあっただろう位置に立っている。 つまり、この声の主は、自分が召喚した――使い魔? 「そ、そうよ。あんたをここに呼んだのは、私よ」 「……我ガ眠リヲ妨ゲタ理由ハ何ダ」 「そ、それは……つ……」 使い魔、って言ったら怒るかな? と、ルイズは怯えた。 だって、何か知らないけどこのデカい奴、怖そうだし。 「……魔、として、召喚して……契約を……」 だからつい、使い魔という単語をどもらせてしまった。 そして、使い魔という単語が聞こえなかったため、 呼び出されたそれは『契約』という自分にもっとも係わりの深い単語に反応した。 「我トノ契約ヲ望ム。ソレガ汝ノ願イカ、小サキ者ヨ」 「え? け、契約してくれるの!?」 「ヨカロウ」 黒い霧のせいでよく解らないけど、こんなに大きくて、 しかも人語を操るとなれば、そりゃもうとんでもない幻獣か何かだろう。 不安や恐怖がすべて吹っ飛び、ルイズはガッツポーズを取った。 こんな規格外の幻獣を使い魔にできるなんて、それなんて勝ち組? メイジの実力を見るには使い魔を見ろ、だなんて格言もあるし、 こんなすごい使い魔の主なんていったら、もんのすごくどえらいですよ自分。 「じゃ、じゃあ早速――」 コントラクト・サーヴァントを、と続けようとした。が。 「ナラバ、我ニ汝ガスベテヲ捧ゲヨ」 「……はい?」 「ソノ身体、髪一本、血ノ一滴ニ至ルマデ、ソノ穢レ無キ無垢ナル魂。 汝ノスベテヲ、我ニ差シ出セ」 「…………」 このデカい奴、いったい何を言ってるんだろう? だって、サモン・サーヴァントは使い魔を呼ぶための魔法。 なのに、呼び出された使い魔に、ご主人様がすべてを捧げるって何? 普通逆でしょ。 とはいえ下手に文句を言って、機嫌を害しては契約できないかもしれない。 「……じゃ、とりあえず契約するから、しゃがんで、顔をきちんと見せてくれない?」 ルイズの言葉を肯定と受け取り、黒い霧の中で、その巨体が膝をつき腰を折る。 そしてルイズの頭上に、光る双眸と鋭く生え揃う牙が近づく。 大きな口。ジャンプすれば、何とか届くかな? 「契約は成立シタ。汝ガ願イ、確カニ――」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 早口に詠唱し、ルイズは力いっぱいジャンプすると、 獰猛な牙の並ぶ大きなそれに口付けした。 「娘、コレハ何ノ真似――」 疑問の声が途中で途切れ、巨躯は突然立ち上がる。 「グオオォォォォォォッ!?」 腹に響くほどの大声で吼えながら、そいつの顔の下、胸の辺りが輝いた。 「落ち着いて。使い魔のルーンが刻まれてるだけよ。 ……うふふっ、契約しちゃえばこっちのものなんだから!」 呼び出された巨躯の幻獣の咆哮が小さくなるにつれ、 ルイズの周囲を包む黒い霧も次第に晴れていった。 ルイズはみんなの反応が見たくて、自分の召喚した使い魔の姿を見たくて、ニヤニヤと笑う。 巨体を誇る幻獣。 いったいどんな姿をしているのか? ワクワクが止まらない。 そして黒い霧が晴れた。 ルイズは前方を見上げていた、そこに自分の呼び出した使い魔の顔があると信じて。 「……あ、あれぇ?」 だが、霧が晴れた時、ルイズの前に使い魔の巨体は無かった。 青く晴れ渡った空が広がっているだけである。 使い魔の姿を探して、視線を降ろしてみる。 男が、仰向けに倒れていた。 白と青を基本としたゆとりのある奇妙な服を着ていて、 顔の上半分を隠す形の白い仮面が不気味であった。 ……誰? これ? 呆然とするルイズ。その周囲で、失笑が、続いて爆笑が巻き起こる。 「見ろよ! ルイズの奴、平民を召喚したぞ!」 「何だあの恰好、大道芸の奴か何かか?」 「さすがは"ゼロのルイズ"だ!」 笑われて、ルイズはハッと正気に戻った。 「ち、違……これは、私の使い魔じゃ……あいつは? あの大きい奴はどこ!?」 慌ててキョロキョロと周囲を見回すが、あの巨体が隠れられるような場所は無いし、 姿形などどこにも見当たらない。何で? 何で!? 困惑するルイズを無視して、コルベールが倒れている仮面の男に歩み寄る。 男が胸元を押さえているため、手をどけて奇妙な服の胸元をはだけさせてみる。 仮面の男の胸には、くっきりと使い魔のルーンが刻まれていた。 「ふむ……珍しいルーンだな。ミス・ヴァリエール。あの黒い霧の中で契約したのかね?」 「え? は、はい。でも私が契約したのは――」 ルイズの説明を聞きながらコルベールは杖を振るい、光の粒子を舞わせた。 ディテクトマジック(探知)で男を調べるが異常は感じられない。 あの黒い霧の正体は不明で、まだ問題が無い訳ではないが、契約の成功は事実。 「人間の使い魔など前代未聞だが、ルーンも刻まれているし、成功だ。おめでとう」 「違っ……」 ルイズが否定しようとすると、倒れている仮面の男が頭を押さえながら半身を起こした。 「う、う~ん……」 その瞬間、ルイズの怒りが爆発する。 大股で詰め寄り、ギラギラと血走った双眸で睨みつけながら、仮面の男の前に立つ。 「ちょっと! あんた、誰? 私の使い魔は、どこ?」 声をかけられた仮面の男は、虚ろな目でルイズを見上げた。 「……ムツ、ミ?」 「寝惚けてんじゃないわよ! あんたいったい何なの? とりあえず、その仮面を外しなさい。貴族の前で無礼だわ」 ルイズに怒鳴られ、仮面の男はぎこちない仕草で顔に両手を当てた。 「仮面……?」 自らのかぶる、白い硬質の仮面の感触を確かめると、男は虚ろな瞳を、ルイズに向ける。 「……私は…………」 そして、言った。 「私は、誰だ」 二度ある事は三度ある。 この人、実は記憶喪失になりやすい体質なんじゃなかろうか? とはいえこうしてハルケギニアの地に、彼は降臨した。 禍、元凶、解放者、大神(オンカミ)……うたわれるものが。 一覧へ戻る / 次のページへ
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前ページ次ページゼロの賢王 トリステイン魔法学院。 その中庭で、ドカーンと威勢のいい音が鳴り響いた。 これで何度目だろう・・・。 同じ制服を着た少年少女たちは、1人の少女を見ながらそう思っていた。 ピンクブロンドの髪を振り乱し、華奢な体をふるふると震わせる少女。 彼女の名はルイズと言った。 ルイズは何とか自分を落ち着かせると、再び目を閉じて、杖を構えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 そう静かに、そして確かに呪文を唱える。 「五つの力を司るペンタゴン」 これは召喚魔法。 彼女のパートナーとなる使い魔をこの場に呼び寄せる呪文である。 「我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ」 少女は力を込めて杖を振った。 その直後、目の前で大爆発が起きた。 大量の土煙が舞い上がり、その場には大きなクレーターまで出来ていた。 周りで見学していたルイズの同級生たちは誰もが、 「『ゼロのルイズ』がまた失敗した」 そう思い、ルイズを嗤おうとした。 その時、立ち込める煙の中に人影が現れた。 少女は目を見開く。 もうもうとした土煙が晴れると、そこには金色の長い髪の男が倒れていた。 「・・・え?」 ルイズは愕然とした。 ドラゴンやグリフォンなどといった高等な生物まではいかなくとも、 せめて使い魔らしい使い魔を呼びたかった。 だが、目の前にいるのは人間。 しかもどう見ても平民である。 それに気付いてから同級生たちの嘲笑の声が辺りに響き渡るのに時間は掛からなかった。 「ハーッハッハッハハ!!!おい、見ろよ。あれ平民だぜ!?」 「やっぱり『ゼロのルイズ』だな!!アハハハハハハ」 「ひ・・・ひ・・・も、もうダメ・・・笑い過ぎで、腹が・・・!!」 ルイズは頭の中が真っ白になった。 暫く呆然としていると倒れていた男がピクリと動く。 「んん・・・」 男は頭を押さえながらよろよろと立ち上がった。 そして、薄く開いた目で辺りをキョロキョロと見回している。 その顔もこれまた野暮ったい顔である。 年齢もこの召喚テストを取り仕切っているコルベールと変わらない様に見える。 ルイズは思わず頭を抱えていたが、すぐにピンクブロンドの髪をひるがえして、 側でルイズと同じ様に呆然としているコルベールへと向き直った。 「ミスタ・コルベール!」 「・・・あ、な、なにかな、ミス・ヴァリエール?」 「あの・・・も、もう一度!もう一度召喚させて下さい!!」 「それは出来ない」 コルベールは首を振って否定の意を示した。 「使い魔の召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した使い魔を変更することは出来ない」 「でも、アレは平民です!使い魔じゃありません!!」 「例え平民であっても、召喚された以上は君の使い魔だ。君は責任を持って彼と契約する義務がある」 「で、でも!!」 ルイズは必死に食い下がるが、コルベールは再び首を振ってそれを拒否した。 「さあ、早く『コントラクト・サーヴァント』をしたまえ」 「し、しかし!!」 そうは言いながらもルイズは分かっていた。 『サモン・サーヴァント』が成功したのは、今の自分にとっては奇跡的なことであり、 今が最後のチャンスなんだということを。 正直、ルイズは再び『サモン・サーヴァント』を成功させる自信が無かった。 「ちょっといいか?」 突如聞こえた言葉がルイズの思考を遮る。 気が付くと、男が二人の側まで来ていた。 「ここは一体何処だ?俺は一体どうなった?さっきまで確かに船の上にいたんだがよぉ・・・」 ルイズは横目でジーっと男の顔を見る。 そしてハァとため息をつくと、覚悟を決めたかの様に男へと向き直った。 「あんた、名前は?」 そう言うと、ルイズはキッと男を睨み付ける。 頭で納得出来ても、やはり心では納得出来ていないのだ。 男はいきなり睨み付けられて少しムッとした顔になった。 「お嬢ちゃん。人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが年上に対する礼儀って奴だぜ?」 「いいから名前!!」 「だから、まずそっちが名乗れって・・・」 「名前!!!!」 「・・・・・・」 男は先程のルイズの様にため息をつくと、やれやれと言った感じで答えた。 「・・・ポロンだ」 「ポロン?変な名前ね。いいわ、ポロン。ちょっと屈みなさい」 そう言うとルイズは人差し指をポロンに向けて、下へと曲げた。 「ハァ?何で俺がいきなり会った見ず知らずのガキに名前呼び捨てにされて、 更に言われた通りにそんなことしなきゃならねえんだ?」 「ガキ・・・?(ピキッ)・・・いいから早くしなさい」 「ったくよぉ」 ポロンはこれ以上言っても無駄だと思い、渋々身を屈めた。 ルイズの顔が近くなる。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 (意外と可愛い顔しているな) ルイズの顔を間近で見て、素直にポロンはそう思った。 だが、ポロンとて愛する妻がいる身であり、血が繋がってはいないもののたくさんの子供もいる。 ポロンがルイズに感じた可愛さは、親が子に思うそれと同質のものであった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」 それに見惚れていたというわけではないが、ルイズの突然の行動にポロンは何も出来なかった。 重なる唇。 流石のポロンもサクヤや子供たち以外と口づけを交わすのはかなり久し振りであり、少し気恥ずかしくなる。 ルイズの体がポロンから離れた。 「・・・終わりました」 それだけ言うと、ルイズの顔は急に赤くなりポロンから目を背けた。 可愛らしいところもあるんだな、と思った瞬間、ポロンの左手に激痛が走った。 「何!?」 毒でも仕込まれたのか?と一瞬勘ぐったが、痛みはすぐに治まった。 代わりに左手には見たことも無い文字で印が刻まれていた。 「何だ・・・こりゃあ?」 「それは使い魔のルーンよ」 「使い魔の、ルーン?・・・つーか、使い魔って何だ?」 「使い魔は使い魔よ。ポロン、今日からあなたは私の使い魔となるのよ」 「ハァ!?何だそりゃ!?」 ポロンは開いた口が塞がらないという感じで言った。 するとコルベールが二人の間へ入った。 「ミスタ・・・そのことは私から説明しましょう」 コルベールから今の事情について簡単に説明した。 今は使い魔召喚の試験を行っているということ。 ミス・ヴァリエール・・・つまりそこの少女がポロンを召喚したということ。 彼女はこの試験に合格出来なければ留年となること。 故にポロンと使い魔の契約を交わしたということ。 「何じゃそりゃあ!?俺は使い魔なんてやらねえぞ!!」 それを聞くとポロンは全力で拒否の意を表明した。 いきなり見知らぬ土地へ連れて来られて、更に見知らぬ子供に口づけされて、 それで今度はその子供の使い魔となれ。と言われているのだ。 拒否しない方がおかしい。 「ハァ?何言ってんの?あんたみたいな平民に拒否権なんて無いわよ」 「ああ?あんだってー?」 「平民が貴族に従うのは当然じゃない!大人しく使い魔になりなさい」 「今のでカチンと来た!!絶対に嫌だね!!」 ポロンが頑なに拒否していると、またクスクスと笑い声が聞こえる。 「おい、『ゼロのルイズ』が平民に拒否られてるぞ!」 「アハハハハ、自分の使い魔に拒否られるなんて流石は『ゼロのルイズ』だな!!」 「ていうか、あれって使い魔なの?ただの平民だろー?」 その声は、事情を知らないポロンさえも不快な気分にさせた。 『ゼロのルイズ』が何を意味しているかは分からないが、 目の前の少女が馬鹿にされている。というのは伝わって来る。 ふと見ると、ルイズはわなわなと震え、目には涙を浮かべていた。 ポロンは「ふむ」と顎に手をやると、すぐに軽く頷いた。 「おい」 「・・・何よ?」 「使い魔になってやってもいいぜ」 「へ?で、でもあんたさっき絶対に嫌だって・・・」 「気が変わった。これからよろしくな、えーっと・・・ルイズだっけ?」 「な、何で私の名前を?」 「さっきから周りのガキ共が『ルイズ』って言ってたからな。お前のことだろ?」 「ええ・・・」 『ゼロの』という部分を敢えて言わないのはポロンの優しさだった。 本来のポロンは子供にはとても優しい人間である。 『ゼロ』が示す意味については気になる部分もあったが、それが彼女にとって触れられたくないものである。 ということはすぐに察せられたので『ルイズ』とだけ言ったのだ。 「ふ、フン!最初から素直に使い魔になってれば良かったのよ」 「素直じゃないのはお互い様でね」 「な、何よ!」 二人の様子を見てコルベールは安心したように頷くと、ふと何かを思い出してポロンの元へ駆け寄った。 「すみませんミスタ、その左手のルーンを見せていただいてもよろしいですか?」 「あん?これか?別にいいけど・・・」 「ふむ、珍しいルーンだ。有難う」 コルベールは素早くポロンのルーンをスケッチすると、手をパンパンと叩いて皆の注目を集める。 「では皆さん、これから部屋へ戻って今呼び出した使い魔との交流を深めて下さい」 コルベールの号令とともに他の生徒たちもぞろぞろと部屋へ戻って行く。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、フライはおろか、レビテーションさえまともにできないんだぜ!」 去り際にそんなことを言いながら飛んでいく生徒たちを見てポロンは驚いた。 その様子を見て、ルイズは「魔法を知らないなんて何処の田舎者よ」と呆れていたが、 ポロンが驚いていたのは飛べることではなかった。 (何で飛べるんだ!?世界から呪文は失われたはずなのに・・・) 思わずポロンは立ち尽くしていた。 ルイズはそんなポロンに気付かず、その場に置いて先へ進んでしまった。 ポロンは暫く呆然としていたが、ハッと気が付くとすぐに地面へ手を向けた。 「メラ・・・!」 すると、懐かしい感触とともに手の平から火の玉が放たれた。 火の玉は地面へ着弾すると、そのままパチパチと燃えている。 (呪文が・・・使える・・・だと!?) これは絶対に有り得ないことであった。 『失われし日』を境に呪文の消失は全世界に及んでいた。 魔力の有無に関わらず、全世界で呪文を使用することが出来なかったのだ。 それが使用出来るというのは、すなわちここが自分たちが知る世界では無い、ということである。 「・・・・・・」 ポロンはごくりと唾を飲み込むと、もう一度呪文を唱えた。 「メラゾーマ!!」 しかし、今度は何も起きなかった。 (魔力は足りている。呪文を忘れた?いや、違う。そういう感じじゃねえな・・・。急に使えるようになったから、心と体が慣れていないのか?そんな感じだな・・・) 「ちょっとポロン!!何で付いてきていないのよ!!」 ルイズが急いでポロンの元へ駆けつける。 ポロンはルイズの顔を見た。 ルイズは怒りながらも何処か不安そうな顔をしていた。 (そうか・・・俺がお前を置いてどっかへ行っちまったとか思ったんだな) 「ああ・・・すまねえな」 そう言うと、ポロンは軽く頭を下げた。 「ふ、フン。はぐれるんじゃないわよ!・・・ほら私の部屋へ案内するから。今度は一緒に付いて来るのよ?いい、離れないでね?」 ポロンは笑いながら頷くと、ルイズの後を追って歩き始めた。 前ページ次ページゼロの賢王
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前ページ次ページゼロ・HiME 「この学院で教えているのは魔法だけじゃないわ。メイジはほぼ貴族で『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」 寄宿舎から学院で一番高い中央の本塔にある食堂につくと、物珍しそうに食堂を見回す静留に向かってルイズは得意げに説明する。 「凝った内装やらテーブルの上にある豪華な料理からしてそんな感じやね……ほな、うちは外で待ってますわ」 「えっ、なんでよ?」 「テーブルの上の豪勢な食事は貴族さん達のためのものですやろ。平民でしかも使い魔のうちが同席するわけにはいかんと思いますよって」 静留の言葉にルイズはしまったという表情を浮かべる。昨日は召喚に成功したことで頭がいっぱいで静留の食事の手配を忘れていたのだ。まともに使い魔の食事も用意できないなんて主人としての沽券に関わる。 「どうしたらいいかしら……そうだ、ちょっとそこのあなた!」 ルイズは少し思考した後、配膳のために傍を通ったシエスタに声をかける。 「はい、なんでしょうか? あ、シズルさん」 「仕事中どすか、シエスタさん」 静留が気づいて駆け寄ってきたシエスタに声をかけると、ルイズが怪訝な表情でたずねる。 「ん? シズル、なんで名前知ってるの?」 「ルイズ様を起こす前、洗濯しにいった時に知りおうたんどす」 「ええ、そうなんです。それで何のご用でしょうか、ミス・ヴァリエール?」 「実はシズルの食事のことなんだけど。厨房の方に話して手配しておくのを忘れてしまって……悪いんだけどシズルに何か食べさせてあげて欲しいの」 シエスタに用件を尋ねられ、ルイズが言いずらそうに答える。 「ああ、それなら余り物で作った賄いでよろしければ」 「それでいいわ。お願いね、シエスタ」 「はい、お任せください。では、シズルさん、こちらへ」 「ルイズ様、食事終わったらすぐ戻ってきますさかいに」 ルイズに一言断ると、静留はシエスタの後について厨房に入っていった。 「ごちそうさんどす、シエスタさん」 「いえ、どういたしまして。食事の際は遠慮なくおいでくださいね、シズルさんの分をちゃんと用意しておきますので」 厨房で出されたシチューとパンを平らげた静留が礼を言うと、シエスタは照れたようにはにかむ。 「コック長のマルトーさんどしたか、このシチューや食堂の料理といい、ええ仕事してはりますな」 「おっ、うれしいこと言ってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん! 気に言ったぜ、飯以外にも何か困ったことがあったらいつでも来な」 静留の賛辞に恰幅のいい中年のコック長のマルトーが、上機嫌で笑って答える。 「そうどすか。そんの時はよろしゅう」 「おう、いいってことよ。平民は平民同士、助けあわねえとな!」 「そうどすな。ほな、うちはルイズ様のとこに戻りますわ」 静留はマルトーの言葉に答えて一礼すると、食事が終わったルイズと合流して教室へと向かう。 ルイズが静留を連れて教室に入ると、先に来ていた生徒達から一斉に無遠慮な視線が飛んできた。 あからさまな嘲笑や囃し立てる声が沸き起こるが、ルイズはムッとしたように顔をしかめただけで、そのまま無視して席についた。その横に静留が立って控える。 (しかし……ほんに使い魔いうんは化け物やら動物しかおらへんのやね) 周囲の使い魔を見回し、改めて自分が召喚されたのは普通ではないのだと静留が思っていると、教室の扉を開いて教師が入ってきた。 「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 中年のふくよかな女性教師――シュヴルーズが教室を見回して満足そうな表情でそう言うと、ルイズは気まずそうにうつむく。 「おやおや、また変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴェリエール」 シュヴルーズが静留を見てとぼけた声でいうと、教室中から笑い声がおきる。 「おい、ルイズ! 召喚できないからってその辺に歩いていた平民の女を連れてくるなよ」 「違うわよ、きちんと召喚したもの! 喚んだのがたまたま平民だっただけよ」 「嘘つくな、『サモン・サーヴァント』ができなかっただけだろう?」 からかった生徒とルイズとの間でたちまち言い争いになるが、シュヴルーズはからかった生徒の口を塞いで強引に場を収め、授業を再開させた。 「シズル、魔法の授業なんか聴いてて楽しいの?」 授業中、シュヴルーズの講義を興味深そうに聞いている静留を見て、ルイズが不思議そうに尋ねる。 「そやね、自分が知らん知識を見聞きするんは楽しいおすな。まあ、元のとこでも学生どしたから、懐かしいんのもあるかも知らんけど」 「そう……」 どこか遠い目をして答える静留にルイズは何も言えず黙り込む。 (そういえば恋敵に好きな人を託して死んだって言ってたっけ……その人のことでも思い出してるのかしら) そんなことをルイズが考えている間にも授業は進み、錬金で小石を金属にする実習が行われることになった。 「……では、ミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう」 「え、私ですか?」 「そうですここにある石ころを、金属に変えてごらんなさい」 突然、指名されたルイズがうろたえて視線を彷徨わせていると、キュルケがシュヴルーズに声をかける。 「先生、危険です。やめといたほうが……」 「錬金に何の危険が? それに失敗を恐れていては何も変わりません。さあ、ミス・ヴァリエール、やってごらんなさい」 「やります」 キュルケの忠告は聞き入れられず、実習をすることになったルイズは硬い表情で石の置かれた教壇の前に向かう。周囲の生徒が一斉に慌てて机の陰に隠れる。 「ミス・ヴァリエール、緊張せずに錬金したい金属を思い浮かべばよいのです」 「はい」 シュヴルーズに後押しされたルイズは呪文を唱え始めると、小石に眩しい光が収束していく。 「これは……あかん!」 小石の発光に危険を感じた静留が『殉逢』を実体化させ、その刃先をムチ状にしてルイズに放った瞬間、爆発が起こった。 爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し、逃げたり噛みついたりして教室は悲鳴が入り混じる阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 「だから言ったのよ、ルイズにやらせるなって! あれ、ル、ルイズは!?」 キュルケはそう言って教壇を指差すが、そこにルイズの姿はなかった。 「そんな、うそでしょ……」 「ここやよ、キュルケさん」 キュルケは最悪の状況を想像して呆然していたが、教室の後ろの方から聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこにルイズをお姫様抱っこした静留の姿があった。 「この通り、ルイズ様は無事どす。安心してや」 「ちょっと失敗したみたいね」 無傷のまま静留の腕に抱かれた格好でルイズが憮然としてそう言うと、教室中の生徒から非難の声が巻き起こる。 「どこがちょっとだよ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 (なるほど、それでゼロいうんやね) 本人の表情と周囲の反応から、静留は何故ルイズがゼロと呼ばれているのかを理解したのだった。 前ページ次ページゼロ・HiME
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前ページ次ページゼロの社長 所変わって、ここはトリステイン魔法学院内にあるルイズの部屋である。 強引かつ強制的な契約により,ルイズの使い魔となった(された)海馬であったが ルイズとコルベールから一通りの説明は受けたものの、今の現状が全くつかめずにいたので、 とりあえず頭の中で整理する事にした。 (遊戯とのデュエルの最中に現れたあの奇妙な鏡。あれがこの小娘の言うところの召喚のゲートとやらであろう。それにしても魔法のある世界とは…。) 海馬は過去に自分が体験した仮想現実のことやドーマとの戦いのときに垣間見た デュエルモンスターズの世界のこと、ファラオの記憶の中の古代エジプトのこと。 (感覚からすればデュエルモンスターズの世界に一番近いか…しかし、戻る手段が無いとは…) コルベールの説明によれば、契約した使い魔を送り返す方法など無い。使い魔か主のどちらかが死ぬまでこの契約は続く、故に送り返す必要が無かったために その魔法も全く研究されなかったという事である。 (なりゆきとはいえ、こう何度も異世界に飛ばされると驚きもなくなってしまうな。しかし、まずはもとの世界に戻る方法を探さなくては…。) 「あーもうっ!黙ってないでなんか喋りなさいよッ!」 海馬がまたもとの世界に戻る方法を考えはじめたころ、ついに沈黙に耐えられなくなったルイズが口を開いた。 「説明してるときも『ふぅん』だの『ほぉ』だの『なん…だと…』だの偉そうな態度で聞いてるかと思えば、 説明が終わるったあとはずっと黙りっぱなしでなんかずっと考えてるし! あんたは…っそ、その…わたしと契約したんだから、私の使い魔なのよ! 私がご主人様であんたは使い魔!使い魔なら使い魔らしく、私のことを無視してずっと考え事なんてしてないでよ!」 ぜーっ…ぜーっ…と勢いよくまくしたてるルイズ。しかし目前にいる海馬はといえば、 「勝手なガキだ。一方的に呼びつけて強引にこんなものを刻み付けるのを契約とは。 身勝手にもほどがある。俺は貴様の使い魔になど、なった覚えも無ければするつもりも無い。」 つまらなそうにルイズを一瞥してはき捨てるように言う海馬。 最も彼の言い分は正しい。強制的に連行し、もといた場所には一生戻さない。お前は永遠に自分の下で働け。 使い魔召喚とは人間を相手にしてみればこういうことを言っているのと同義である。 普通なら納得できるはずが無い。しかしルイズからしてみれば、自分がせっかく成功させて召喚した使い魔が、 自分の言う事を聞かずに反論してくる状況に納得は出来ない。 「何言ってるのよ!そのルーンが契約の印!それが刻まれている以上あんたは私の使い魔なの!」 「ふん。俺は、いや、たとえお前が別の何かを召喚したとしても、殆どの者がお前には従わん。身の程を知れ!」 「なっ…なっ…?」 ルイズは過去、自分の事を馬鹿にされた事はあれど、ここまでの侮蔑を受けた事は無かった。 それゆえに海馬の発言に言葉を返す事が出来なかった。 「他者の上に立つということは、自分自身の力量だけでなく、頭脳の回転の速さ、人望などが必要だ。 貴様のようにギャ-ギャ-とわめくだけで何を示すでもなく主を名乗る、そんな子供になど誰がついてくるものか! ましてや,俺は他者の指図など受けん!」 ルイズは絶句した。 いや,反論しようにも言葉が出ない。平民にここまで言われて、 「平民の癖に、貴族に対してなんて口の聞き方を!」と反論しようにも、貴族としても自分は魔法を成功した事が無い『ゼロのルイズ』 その程度の実の無い反論では同じことで論破される。 それでも,目の前のこの男に対して何とか言葉を紡ごうとしてもまとまらない。 言葉にできない。 むしろ恥かしいとさえ思えてくる。自分は使い魔との契約を軽軽しく見ていたのではないか。 召喚さえできればあとは勝手に使い魔が動いてくれる。 そんな風に考えていたのではないか。 違う メイジにとっての使い魔は『一生の僕であり、友であり、目で耳である』 そう,一方的な奴隷ではないのだ。 (それなのに…私は…っ!) 知らず知らずの内にルイズの瞳からは涙があふれていた。 自分のメイジとしての力量の無さに。 自分の使い魔に対する浅はかな考えに。 どうすればいいのかわからない悔しさに。 「どうすれば…いいのよ…?魔法が成功しないから…一生懸命勉強したっ! それなのに!魔法は成功しない!成功率『ゼロ』!『ゼロのルイズ』! クラスのみんなにも馬鹿にされてっ!せっかく召喚した使い魔にまで拒絶されて!それじゃあ私はどうしたら良いのよっ!」 涙に濡れた顔をぬぐいもせず海馬に食いかかるルイズ。 わからない!どうすればいい!誰か答えて!おしえてよ! 私はどうすればいいの!? 「なに勘違いをしている?」 「ふぇ」 「貴様は今、魔法が成功しないといった。では、どうしてこの俺がここにいる? それは貴様の召喚魔法が成功したからではないのか?」 そうだ。 ここに海馬がいる以上、ルイズのサモンサーヴァントは成功している。 そう、ルイズの魔法は成功しているのだ。 「私の…魔法…?」 「俺はこの世界の魔法とやらの知識は無い。だが、俺がここにいる以上、貴様の魔法は成功しているのだろう? 俺にとっては迷惑この上ない魔法だが、成功した以上、お前は『ゼロ』ではないだろう。」 「私は…ゼロじゃ…ない?」 「少なくとも1は成功した。ならそれが2にならないとどうして言い切れる? 貴様は既にゼロではない。ならば次はさらに前へと進むのみだ。 全力で、貴様の目指す未来へのロードを突き進め。そして,前へと進む気があるのならば…」 海馬はそこで区切り,ルイズを正面から見据え 「俺は貴様を助けてやる。怠惰に現在を食いつぶし、我侭を言うだけのガキには興味は無い。 が、貴様は既に目指す場所を見つけているのだろう。そして貴様の進む道のりに、 俺の力が必要だというのなら、俺は力を貸してやる。 俺は貴様の『使い魔』なのだろう?」 まっすぐな瞳で見つめてくる海馬 そう、海馬は確かにこの理不尽な契約に怒りを覚えていた。 だが、決して海馬はただの自分勝手な男ではない。 異世界に召喚され、使い魔として契約させられる。それだけでも怒りを覚えるというのに、 その主と言い張るルイズは、何を示そうともしない。 そんな一方的な押し付け、子供の我侭に付き合っている暇などない。 …だが、もしルイズが自分で道を歩こうとするのなら。 そこに自分の手が必要とするのなら。 いつのまにか止まっていた涙 ルイズはその瞳に答え、まっすぐに海馬を見つめ 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ド・ル・ブラン・ラ・ヴァリエール。」 そう、これこそが本当の使い魔との契約。 同じ道を進み、同じ未来を見据えるもの同士の契約。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 その呪文とともに口付けをするルイズと海馬。 ルーンは既に刻まれている、故に肉体的変化は起こらない。 だがそれでも、ルイズと海馬の間に小さな、目には見えない絆という契約が生まれたのだった。 「これからよろしくね、セト!」 「いいだろう、ルイズ。元の世界に戻るそのときまで、貴様と共にいてやろう。」 前ページ次ページゼロの社長
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前ページ次ページ未来の大魔女候補2人 未来の大魔女候補2人 ~Judy Louise~ 第5話 後編『落ちこぼれメイジと香水少女』 学院の本塔を囲む5つの塔の内の1つ、土の塔。その中にある講義室の一つで授業が執り行われていた。 講義室は前に行くほど下がっていく構造をしており、長テーブルと長椅子が階段状に配置され、部屋の中央と両端には通路が通っている。 教室の前方に在る教壇では、紫のローブを着て帽子を被ったふくよかな中年女性が教鞭を執り、それを生徒達が思い思いの場所に座って講義を受けている。 その中には生徒以外の存在も居た。それは、使い魔である。生徒達は、先日召喚した使い魔を連れているのであった。 ある者は、肩に双頭の鳥をとまらせ、またある者は、前足がなく後ろ足が発達した毛むくじゃらの大型鼠のような獣を連れている。 机の下を覗くとヘビやトカゲ、犬猫が寝そべっており、窓の外では、講義室に入れない大型の使い魔が大人しく主を待っている。 様々な動物が溢れる教室の後方、後ろから2番目の窓際の席にピンクい少女がいた。その隣には、見事にとぐろを巻いた金髪を持つ少女が座っている。 2人の少女の傍らには、オレンジの3つ目と、小さな皮膜の翼を持つ巨大なカエルが鎮座し、それの頭には、通常サイズの黄と黒の斑模様のカエルが乗っかっている。 「ねえ、モンモランシー。何でアンタが隣に居るの?」 貧相な体つきのピンク髪の少女は、不機嫌なのを隠しもせずに、何かと話しかけてくる髪が螺旋を描く少女にぞんざいな物言いをする。 しかし、モンモランシーは意に介した様子もなく、カエルの方を見ながら返事をする。 「別にいいじゃない? ロビンがポセイドンと仲良くしたいって言うんだから」 「だからってアンタと私が仲良くする必要はないでしょ!」 「わたしだって仲良くしているつもりはないわよ」 モンモランシーはルイズの方は見ずに、ポセイドンに視線を注いでいる。 「じゃあなんで笑顔なのよ!? しかもすっきり爽やか!」 ルイズの言うとおり、モンモランシーの顔には笑顔が浮かんでいた。それを誤魔化すように彼女は顔の前で手を振り、ルイズに向き直る。 「そんな事無いわよ。でも、立派なカエルねぇ、こんなの見たことないわ。 新種の幻獣かしら? ねえルイズ、あの子から何か聞いて無いの?」 やはりカエルから目を離さずに、モンモランシーはルイズの肩を揺さぶる。 「はぁ…… ジュディは東方から来たんだって。だからそのカエルは東方の生き物」 ルイズは投げやりに答える。 それはオスマンから用意された言い訳だった。無用な詮索を避けるために、虚実入り混ぜて周りには説明するようにと、今朝ジュディを迎えに来たロングビル経由でルイズに伝えられたのである。 東方と聞いて、モンモランシーは目を輝かせる。 「東方!? へぇ~、そうなんだ。東方から来た人なんて初めて見たわ。一体どんな所なのかしら?」 「あの子、森の奥の町に住んでいて、其処から出たことがないって言ってたから聞くだけ無駄よ」 「それは残念ね、森の奥じゃ田舎も田舎よね」 「そうそう、こっちとあまり変わんないって」 当たり障りのない適当な言い訳を聞いて、モンモランシーは興味を失ったようだが、舌の根の乾かぬ内に新しい話題に飛ぶ。 「うーん、面白くないわね。でもでも、ポセイドンは素敵よね。流石、東方のカエルは違うわよねぇ」 「……自分の使い魔はいいの?」 「それはそれ、これはこれよ。どちらも素敵で甲乙なんてつけられないわ」 ルイズはモンモランシーの瞳の中に、煌めく流れ星が見えた気がした。 モンモランシーと仲が良いわけではないが、1年間同じ教室で授業を受けていれば大体の人となりは知っている。 だが、こんなに妙なモンモランシーをルイズは見たことがなかったし、見るとも思わなかった。 しかしそれも、今までの言動から推察すれば、自ずとその原因は見えてくる。 『今朝は私のことを変だのなんだの言ってたけど、自分の方がよっぽど変じゃない。この、カエルフェチめ!』 心の中でルイズは毒づく。その視線にも気が付かずにモンモランシーは、2匹のカエルを眺めて悶えている。 それは、おおよそルイズには理解しがたい性癖であり、絶対に相成れないと確信するのであった。 「はぁ……」 1つ溜息をついてから顔を前に向けて、授業に耳を傾ける。講義室の半分以上の幅を持つ黒板には、系統魔法の相関図と土系統の詳しい説明が書かれている。 そして、その手前の教壇では『赤土』のシュヴルーズが教鞭を執っていた。内容は、土系統の初歩『錬金』の魔法についてである。 『先ずは実演してみせる』そう言ってからシュヴルーズが杖を振ると、実用第一の大型机の上に転がっていた石ころが、光沢を持った黄色の金属へと変化する。 すると、ざわ…ざわ…と教室中に軽くざわめきが走り、キュルケなどは身を乗り出して「ゴールドですか!?」などとのたまっている。 「いいえ、これは真鍮です。色はよく似ていますが、銅と亜鉛から成る合金で金管楽器に多用されていますね。 さて、ゴールドの錬金についてですが、それを出来るのは『スクウェア』クラス、それも『土』の4乗のメイジだけです。 私は所詮……」 そこで言葉を切り、勿体ぶりながら続ける。 「『トライアングル』ですから……」 そう言ってから生徒全体を見渡す。 スクウェア、トライアングルというのはメイジの格をあらわすものであり、それは同時に扱える系統の数が1つ増えるごとにドット、ライン、トライアングル、スクウェアと呼び表わされる。 扱うのは異なる系統同士である必要はなく、同じ系統を足しても構わない。例えば、『火』と『火』を足せばより強力な炎を扱えるようになるし、シュヴルーズのように『土』『土』『火』であれば、2つの金属を混ぜ合わせて合金を作ることも出来る、という具合だ。 「では、誰かに実践してもらいましょうか。 そうですね…… ミスタ・グラモン」 「それでは、この『青銅』が……」 指名を受けて、壁側の席に居る少年が立ち上がった。何を勘違いしているのか、口には薔薇を咥えている。 「と、見せかけてミス・ヴァリエール、貴女に決めました!」 「うぇっ?」 シュヴルーズは大きく体を捻って、少年とは部屋の反対側に居るルイズを杖で指し示した。 そのフェイントに、ルイズは頓狂な声をあげ、それに数瞬遅れてクラスメイト達がどよめき始める。 「いけません! それは絶対に駄目です!」 「危険ですから止して下さい」 クラスメイト達は口々にシュヴルーズに指名し直してくれと懇願する。 ルイズは、そのリアクションに思う所もあるが、失敗の2文字が頭にちらつき、立ち上がることが出来ない。 騒然となる室内を見渡して、シュヴルーズは不思議がる。 「何故ですか? 彼女は大変な努力家だと聞いています。 さあ、ミス・ヴァリエール! 失敗を恐れずにやってご覧なさい。失敗しても、それはきっと今後の糧となるでしょう。 さあ前へ! ミス・ヴァリエール!」 まるでオペラ歌手のように大仰に両手を広げ、シュヴルーズはメゾソプラノの声を張り上げる。 ルイズはそれに背中を押され、少し前向きな気持ちになるが、脳裏に映る何時もの光景が二の足を踏ませる。 「そう かんけいないね」 「やめてくれ たのむ!!」 「ころしてでもやめさせる」 ルイズが逡巡していると、次々とクラスメイトの声が聞こえてくる。そのどれもが、否定的で失敗すると確信しているものばかりだ。 その事実がルイズの癇に障る。 『なによ、100%失敗すると思ってるの? 昨日は、サモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントを成功させたじゃない。しかも2連続で成功したのに、そのことは考慮しないわけ!?』 歯に衣を着せぬクラスメイト達の物言いにルイズの思考は加熱され、沸騰寸前となる。 「ねえ、ルイズ。まさか挑戦しないわよね? 無謀な真似は止して頂戴」 隣からの猫なで声に、ルイズの怒りのメーターは振り切れた。固定されている椅子を、蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がり、怒りに任せて叫ぶ。 「な なにをいうだぁー きさまらー!」 シーンと教室に静寂が訪れる。ルイズは鋭く周りを見回してから、シュヴルーズに向き直る。 「やります、やらせて下さいミセス・シュヴルーズ」 「そう言うと信じていましたよ、ミス・ヴァリエール」 「や、やめてルイズ…… お願い」 弱々しいモンモランシーの懇願に、ルイズは振り向きもせずツカツカと教壇に向って歩いて行く。 それを見て、呆気にとられていたクラスメイト達は、弾かれたかのように行動を始める。 「いかん、総員退避ー!」 「間に合わないわ! クリーム、机の下へ」 「対閃光、対衝撃用意。身を低くして遮蔽物に隠れ、両手を耳に当てて、目を閉じて口を半開きにするんだ!」 「今日こそ爆発を見切る」 クラスメイト達の反応は、ドタバタと蜘蛛の子を散らしたかのように教室から逃げ出す者、もしくは急いで机の下に使い魔と共に隠れる者の2種類だ。 そして、ルイズとシュヴルーズはその分類には含まれない。 「さあ、この石ころを貴女の望む金属へと変えるのです。 心に強くその金属を思い描き、杖に魔力を集中させるのです。ルーンは覚えていますか?」 「大丈夫です、ミセス・シュヴルーズ。見ていて下さい」 教壇に上がったルイズにシュヴルーズは熱心に指導をする。そして、熱心に指導をするあまり、周りの状況に気が付いていない。 ルイズは目を閉じ、魔力が螺旋状に体を巡るのを意識して深呼吸をする。それによって心と呼吸を落ち着かせ、イメージングを助けるのだ。 やがてイメージが定まり、杖を振り上げる。思い描くのは鉄、鈍色に輝く金属。 「アンサス カー イーサ エワーズ……」 「ブリリアント! 発音は完璧です!」 慎重な詠唱をシュヴルーズが大袈裟に褒めるが、深く集中するルイズの耳には届かない。 「ベルカナー ベオーク ジエーラ!」 詠唱の終わりと同時に目を見開いて、杖を石ころ目掛けて振り下ろす。 その瞬間、音は消え去り光が満ちた。 ◆◇◆ 学院本塔には図書館がある。いや、それは適切な表現ではないかも知れない。図書館は巨大な円筒形の空間で形作られ、壁の本棚には本が隙間なく整然と並べられている。 天井は30メイルの高さにあり、本塔の大部分が図書館で出来ていることがわかる。つまり、本塔の中に図書館があるのではなく図書館塔が本塔の役割を果たしているとも言える。 今の時間、図書館を利用する者は少なく、静寂が満ち満ちている。此処の蔵書量はトリステインでも指折りで、種類も豊富だ。魔法の指南書をはじめ、文化、歴史、教育、娯楽、雑学、はては閲覧制限をされている禁書の類まである。 そして、蔵書の閲覧用に長テーブルが幾つも並べられているが、それとは別に個室も存在している。 幾つかある個室の1つ、学院長専用の個室で授業が行われていた。 授業とは言っても、生徒は1人しか居ない。 「アー、べー、セー……」 「アー、べー、セー……」 一語一語区切って発音される女性の声の後に続いて、女の子の復唱する声が聞こえる。女性というのはロングビルであり、女の子というのは当然ジュディである。 ロングビルの瞳には、一生懸命に後に続いて発音をするジュディが映っている。2人は1つの机に向かい合って座り、机には幾つかの教科書や辞書、そして書き取りをするための小さな黒板が置かれている。 ジュディに読み書きを教えることは、ロングビルにとって有意義な時間であると言えた。 それは、ジュディから学ぼうという一生懸命な気持ちが伝わってくるのからである。 セクハラ常習犯のオスマンや、変人揃いの教員、我儘で小生意気な生徒にいつも囲まれているロングビルには、その素直さや無邪気さが好ましく映るのだ。 ジュディに、アルファベットの書き取り練習をするように言いつけて物思いにふける。 曇りのないジュディの瞳を見ていると、残してきた妹分のことが思い浮かぶ。多くの孤児と共に住んでいる妹分も、このような人を疑う事を知らない瞳を持っている。 けれど、ジュディと妹分のソレとを比べると、決定的に違う部分がある。ジュディが溌溂と照らす太陽だとするならば、妹分は物悲しく輝く月だ。 『もうあれから4年が経った……』 頭を振って、沈んでいく気持ちを切り替える。 『今度の仕事は成功するかどうか分からないし、あまりにも分が悪いなら、とっとと見切りをつけてお暇しようかねぇ? テファに最後に会ったのは3ヶ月前位か。何時もより少し早いけれど、あの家に帰ろう。 読み書きなんて、私が教えなくても教師は腐るほどいるし途中で投げ出しても……』 そこまで考えてハタと気が付く。この学院には碌な教師が居ないのだ、いま少女に歪みでも生じて、将来捻くれた大人にでもなったとしたら、流石に寝覚めが悪い。 結局、自分が教えるしかないという結論に辿り着き、頭を抱える。きっとオスマンも、それを見越して自分に依頼したのだろう。全く嫌になる老人だ。考えが筒抜けになっているかのようだ。 ジュディがハルケギニアではない場所から来たという事に、少なからずの興味もあるが、態々首を突っ込む必要もないし、自分に出来る事もない。 願う事は唯一つ、早く読み書きを覚えてくれる事だけだ。そうしない事には行動が制限されてしまう。 「……ロングビル先生?」 「な、何ですか? もう終わりましたか?」 ジュディから呼びかけられ、ロングビルは現実に呼び戻される。 対面に座るジュディに目を覗きこまれると、何を考えているのかを読み取られているようで、居心地を悪く感じてしまう。 無垢な瞳には、取り乱した自分が映っている。それはまるで、感情をはね返す鏡のようだ。 「今、揺れませんでしたか?」 しかし、それは取り越し苦労であった。ジュディには不審がる素振りはない。 「いえ、少し考え事をしていたので気が付きませんでした。ジュディちゃんは感じたのですか?」 「う~ん…… よく分からなかったけど、ほんの少し揺れたような気がしたの。気のせいだったかな?」 部屋の中を見回しても、そのような痕跡は見つけられない。揺れていても分からないほどに、小規模な揺れだったのだろう。 ジュディにもよく分かっていないらしく、ひとしきり首を傾げてから白墨を手に取り、再びアルファベットの書き取りを始めた。 ロングビルは、気が付かれないように小さくため息を吐いてからジュディに話しかける。 「書き取り練習は、もうその位でいいでしょう。 次は単語です。ここからは、少し難しくなりますよ? しっかりとついて来て下さいね」 そう言ってから、教科書を広げる。 「ダイジョウブ、まっかせて!」 「元気が良いですね。では、テキストの12ページを開いて……」 威勢の良い返事に、思わず微笑みがこぼれる。 このペースなら、午前中には簡単な単語なら幾つか覚えてくれるだろう。そう考えながら授業を進める。 この2人きりの授業は、昼を告げる鐘が鳴るまで続くのであった。 ◆◇◆ アルヴィーズの食堂。 それは、トリステイン魔法学院の本塔1階にある大食堂の名前である。 アルヴィーズとは『賢い小人』の意であり、その小人の名前が付けられた食堂の壁際には、その由来となった小人の精巧な彫像が幾つも並んでいる。 この大食堂で学院全ての生徒と教師が、全ての食事を取るのだ。 食堂には、100人は優に座れる長いテーブルが3つ置かれており、教師用に設えられているロフトには、数人掛けの丸いテーブルが幾つも並べられていた。 それらのテーブルは、一様に純白のテーブルクロスで覆われ、各所に蝋燭と花が添えられている。テーブルの上には、贅を尽くされた料理が並べられ、様々な果物が盛られた籠が置かれている。 食堂の構造は、ゆったりとした間取りになっていて、全ての生徒と教員が入っても窮屈に感じることはない。 時刻は昼。午前の授業が終わり、多くの者が昼食を取るために、この食堂に集まってきている。 その人波の中に、ロングビルとジュディが居た。ジュディはキョロキョロと食堂の中を見回している。 「ルイズさん、居ないね」 「そうですね、如何します? 待ちますか?」 ジュディの視線は、中央のテーブルの昨夜と今朝に座った席に注がれており、そこには誰も座ってはいない。 3つある長テーブルは、座っている者達のマントの色で分けられている。ジュディが居るのは入り口付近であり、そこから茶、黒、紫の順で並んでいた。 マントの色は学年を表している。ジュディが纏っているマントは、1年生用の茶色のマントであり、2年生であるルイズが纏っていたのは、黒のマントであった。 必然的に紫のマントの者が、3年生と言う事になる。なるほど、他の者達よりも落ち着いた雰囲気がジュディにも感じられる。 改めて食堂を見回すと、昼食にはまだ時間があるらしく、給仕達は料理の載った皿や食器を並べており、生徒達はペチャクチャと雑談に興じている。 「まだ時間がありそうだし、待ちます」 「そうですか。なら、上で待ちませんか? 上からなら見渡しやすいですから、着たら直ぐに分かりますよ」 「そうですね。じゃあ、上で待ちます。 あっ……!」 ジュディはロフトへと上がる階段に進もうとして、足を止めた。それは、人波を潜って、黒のマントを纏った赤毛の少女が此方に近付いて来るのが見えたからである。 赤毛の少女は、褐色の肌とルビーの如き瞳を持っている。背はロングビルよりも少しだけ高く、長い脚が短いスカートからスラリ伸び、シャツの胸元を大きくはだけさせ周りに色香を放っている。 少女は目の前まで来ると、色よい唇でニッコリと微笑む。 「ジュディ、ミス・ロングビル、ごきげんよう」 「こんにちは、キュルケさん。 ルイズさんが何処に居るか知ってる?」 「あら、ルイズを探してるの? そう言えばジュディは、一緒にいなかったから知らないわよね」 含みを持ったキュルケの声に、ジュディは小首を傾げる。 「何かあったんですか?」 「ルイズが魔法を爆発させて、教室を滅茶苦茶にしたのよ。だからその片付けをしてるわ。 あれはお昼までには終わらないわね」 「ええっ、爆発!? ルイズさん、怪我とかしなかったの!?」 物騒な単語に反応してジュディは酷く驚くのだが、キュルケは苦笑いを浮かべる。 「大丈夫よ。爆発の至近距離に居たのにピンピンしてるわ。ミセス・シュヴルーズは気絶したのに、ルイズは服がボロボロになっただけよ」 「そっかぁ、良かった。怪我はしてないんだね」 怪我をしていないと聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。 「で、制服を着てるけど、ジュディは何をやってたの?」 キュルケは好奇心に瞳を光らせながら聞いてくる。 「オスマンさんに呼ばれて学院長室に行って、そのあと図書館で、ロングビル先生に読み書きを教えてもらってたの。覚えが良いって褒められちゃった」 「ふーん、読み書きね。詳しい話は向こうでしましょ。もう直ぐお祈りも始まるしね」 「えっと……」 ジュディは、迷いながらロングビルを見上げる。 「私に構わなくて結構ですよ。昼休みはお友達と過ごした方がいいでしょう? では、午後も図書館で……」 そう言ってロングビルは、踵を返す。 しかし、一歩を踏み出したところで、走ってきた生徒にぶつかりよろめく。ぶつかった女生徒は、その後も何人かの生徒にぶつかって食堂から走り去って行ってしまった。 食堂の入口に目をやりながら、キュルケがポツリと呟く。 「さっきのは、モンモランシーよね? あんなに慌てて如何したのかしら?」 キュルケの言うとおり、走り去って行ったのはモンモランシーであった。あの特徴的な髪形は、そうそう間違えはしない。 「何があったのかは知りませんが、泣いていたように思います」 ぶつかられたロングビルは気を害した様子もなく、むしろ気掛かりだと言う様に話す。 「本当ですか!?」 「向こうから走ってきたんだよね? 何があったんだろ?」 ジュディはモンモランシーとは朝に少し話しただけだが、何があったのか心配になる。 モンモランシーが走ってきた方向に目を向けると、2年生のテーブルの周りに人だかりが出来ていた。 「行ってみましょ」 キュルケの提案に、3人は目配せをしあって頷く。 人垣を縫って近づいていくと、人だかりの中心には金髪の少年と黒髪の給仕が居て、何か給仕に文句を言っているようだった。 少年は、その金髪から赤紫の液体を滴らせ、着ているフリフリのシャツは赤紫色に染まっている。そして足元には、赤紫の水溜りが出来ている。 耳を傾けて成り行きを見守る。 「どうしてくれるのかね? 君が軽率に香水の壜を拾い上げたおかげで、2人のレディの名誉が傷ついてしまったではないか。 機転を働かせるという頭はないのかい?」 金髪の少年は足を組み変えながら、黒髪の給仕を小馬鹿にした風に厭味ったらしく文句を言っている。 ジュディには、事の状況が余りよく飲み込めてはいないが、1つだけ分かったことがあった。この少年は、女の敵だ。その事を、幼いながらも女の直感でもってジュディは理解した。 ・ ・ ・ 今回の成長。 ルイズは、おしゃれL2を破棄して肉の鎧L2のスキルパネルを手に入れました。 ジュディは、聞き耳L2のスキルパネルを手に入れました。 第5話 -了- 前ページ次ページ未来の大魔女候補2人
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俺の名前は平賀才人。ルイズの『二人目』の使い魔だ。 元々俺は地球の日本にいたのだが何の因果かハルケギニアっていう場所に呼び出されちまった。 召喚されたときはそりゃ泣いたりしたが『住めば都』っていう言葉通り結構環境が良かった。 ご主人様であるルイズは以前までは結構厳しい性格だったらしいが。 『最初に召喚した使い魔』のおかげでその性格を改善したらしい。恩に着るよ。 俺がルイズに怒ったことは、初めてルイズの部屋に入った時にドアを開けたら本の山が俺に襲いかかってきたことだ。 そのとき俺は本の中に埋まって危うく死にかけるところだった。 部屋の中も凄まじく、ところせましに本の塔が建てられていた。 俺はルイズに少しは片づけたらどうだって言ったらルイズは返事をしただけで以来ちっとも片づけようともしない。 しょうがなく使い魔として掃除しようとしたら乗馬用の鞭で叩かれちまった。痛かったぜ…。 そんなあくる日のこと、ルイズのいない部屋でのんびりしていたらふとある物が目に入った。 それは『帽子』だった。よく魔法使いが被る黒い帽子、それがベッドの横に置いてある。 俺は何故かそれが気になったので帽子を手に取ってみると帽子の下に日記が置いてあった。 タイトルが書かれてあったがこの国の言葉はまだわからなかったら何なのかさっぱりだった。 俺は気になったのでページを開いてみると…そこには懐かしい日本語が書かれていた。 俺はプライバシーに関わりそうな事を理解して、日記を読む事にした。 ○月○日 (これは私が元いた世界の日にちだが) 私を召喚したルイズって奴から日記を借りた。 こんなに珍しい事は無い、珍しい事があったら日記に書き取っておこう。 しかしルイズから聞いた話だけだがこの世界には珍しい物がたくさんありそうでワクワクするぜ。 ▽月⊿日 今日ルイズやキュルケ達と一緒に『土くれ』のフーケとか言う奴を退治しにいった。 そいつはでかいゴーレムを作って襲いかかって来たが私の『マスタースパーク』であっという間に倒してやったぜ。 その後にノコノコと出てきたフーケの正体はなんと学院長の秘書だった。あの時は驚いたぜ。 『破壊の杖』は手に入れたかったが学院長が断固として断ったため代わりに『遠見の鏡』をもらった。 ★月★日 アルビオンから久方ぶりに帰ってきた。 まさかあのワルドって野郎が敵だったとは知らなかった。まぁすぐに倒してやったけど。 後帰るついでにアルビオンの宝物庫からいろいろと拝借してきたぜ。 でもそのせいでお姫様の愛人をむざむざ見殺しにしてしまった。 あの時気づいていれば助けられたのに…本当に情けないぜ。 ☆月☆日 やっと元の世界に帰れる方法を見つけた。 ルイズはそれを聞いて帰らせまいと私にしがみついたが仕方なく自作の眠り粉をかがせた。 この日記は置いておこう、短い間だったがルイズは私のことを本当の親子か何かのように慕ってくれた。 だから私がここにいたことをここに残しておくぜ。後、名残惜しいが良く喋る剣も残しておこう。 本当ならすぐにでも帰りたいがなんかこの国にレコン・キスタとかいう連中が近づいているらしい。 どうせ最後だ、この霧雨魔理沙がハルケギニアにいたことを記録に刻んでやるぜ。 追伸、恐らく次に召喚される奴。人間で日本語が分かる奴に伝えておく。 私の代わりにルイズの世話を見てくれ。 『タルブ会戦』の折、箒に跨りたった一人でレコンキスタの旗艦『レキンシントン』号を沈めたうえに竜騎兵を全滅させたメイジがいた。 その者の名は……キリサメマリサ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、霧雨魔理沙。
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前ページ次ページ攻撃力0の使い魔 ルイズが起こした過去最大級の爆発によって、当然ながら シュヴルーズの授業は中止となった。 爆心地にいた ルイズとシュヴルーズを含め 多数の者たちが医務室に運び込まれる大惨事となったのだから、無理は無い。 教室には もう、生徒も使い魔も ほとんど残っていない。 あとから駆けつけてきた数人のメイドたちが、同じく あとから駆けつけた教師の指示の下、せっせと荒れ果てた教室の片づけをしている。 ユベルは…と言うと、黒板から最も離れた場所……教室の壁に もたれかかって腕を組み、今後の計画…… ●このハルケギニアの地に飛ばされたであろう 十代を探すこと ●この学院内の 深い心の闇を持った人物に接触し 懐柔すること ●デュエルを介さずにユベルの存在を脅かすことのできる「爆発」を使うルイズへの対処 以上の3点について思案していた。 (さて……) ●このハルケギニアの地に飛ばされたであろう 十代を探すこと これについては、言うまでもない。最優先事項であり、当面の目標だ。 ●この学院内の 深い心の闇を持った人物に接触し 懐柔すること これについては、半分 解決したようなものだ。今のところは、タバサの心の闇だけでも 十分だと言える。 それに、この世界の魔法使いたちの中に ルイズ以外にも 自分に対抗できる力を持った者が いないともかぎらない。 今は まだ、ヘタに この世界を引っかきまわして 敵を増やすべきではないだろう。 ●デュエルを介さずにユベルの存在を脅かすことのできる「爆発」を使うルイズへの対処 現状、この問題が いちばん厄介だと言える。 さすがに 今すぐルイズを始末するつもりは無いが、ルイズの起こす「爆発」が自分にとって脅威になるとわかった以上、捨て置くわけにもいかない。 今のところ ルイズとは「メイジと使い魔」という協力関係にあるものの、いずれ 敵対する可能性が無いとも言い切れないのだ。 それに どのみち、十代を見つけ出して目的を果たした そのあとには、ルイズが不要な存在になることは明白だ。 ルイズと対峙する場合のことを考えると、あらかじめルイズへの対抗手段を用意しておくか ルイズの攻撃手段を奪っておく必要がある。 だが、そう簡単にルイズが この世界の「魔法」を捨ててくれるとは思えないし、そのときまでに自分が「爆発」への対抗手段を発見しているかも わからない。 そこで ユベルは、魔法の代用として ルイズに「デュエル」を与えることを考えた。 デュエルであれば、十代未満の実力のデュエリストに後れを取るつもりは無い。 少なくとも 正体不明の魔法「爆発」よりは、まだ対抗のしようがある。 上手くいけば、ルイズのほうも 自身の「力」に満足して、魔法のことや使い魔の件すら あきらめてくれるかもしれない。 (だが……問題はデッキだな……) デュエルをするには、デュエルモンスターズのカードデッキが必要となる。 ルイズをデュエリストに教育する以上、彼女に持たせるデッキを用意してあげなくてはならない。 今現在 ユベル自身が持っているデッキは、2つ。 ひとつは、デュエルアカデミアの地下に封印されていた、世界を滅ぼす力を持った「幻魔」3体をテーマとする【三幻魔】のデッキ。 そして もうひとつは、ユベル自身と その進化系をテーマとする【ユベル】のデッキ。 その どちらかを持たせることになるのだろうか。 (ボク自身のデッキは、ボクにしか扱えないとして……) ユベルは、左腕を変形させて 手首から肘にかけてヒレのように広がった羽を生やし、生体デュエルディスクを展開する。 そして、そこに納められたデッキから 3枚のカードを取り出す。 炎属性・炎族《神炎皇 ウリア》 光属性・雷族《降雷皇 ハモン》 闇属性・悪魔族《幻魔皇 ラビエル》……三幻魔のカードだ。 三幻魔は 世界の均衡を崩すほどの力を持っているハズなのだが、今は 何の力も感じない。 十二次元宇宙の さらに外に存在するであろう このハルケギニアへのゲートを通過するときに その強大な力を失ってしまったのだろうか。 (……ふん、木偶の坊どもめ……) 精霊の力を失った三幻魔など、もはや 召喚しにくいだけの お荷物だ。とても、ルイズに扱えるとは思えない。 元より、初心者の手に負える代物ではなかったのだが、これで 輪をかけて扱いにくくなってしまった。 【エクゾディア】のデッキは、前の次元で協力者のアモンに譲渡してしまったため、今は手元に無い。 【宝玉獣】のデッキも、十代に対しての人質として確保しておいた元の持ち主:ヨハンの体ごと、この世界に来るときに行方不明になってしまったようだ。 (……と なると、やはり あの部屋のデッキか……) 考えを まとめ終わり、トリステイン魔法学院 本塔5階の宝物庫に向かうため、教室を出ようとするユベル。 そんな異質な亜人に、声をかける者が1人。 「少し…よろしいかね?」 丸い禿頭と眼鏡が煌めく、痩せた中年男性……爆音を聞いて駆けつけてきた教師の1人:コルベールだった。 「キミは…確か 昨日の……」 「教師のジャン・コルベールです。君は、ミス・ヴァリエールの使い魔の…えぇと……」 「ユベルだ。よろしく、コルベール」 「あぁ、こちらこそ よろしく、ユベルくん」 ミス・ヴァリエールの召喚した亜人が、3つの目で まっすぐに見下ろしてくる。 その額のダイヤ型の目の中に刻まれているルーンは、非常に珍しい形をしている。 亜人の正体は いくら調べても判明しなかったが、ルーンのほうなら 手元の参考書籍のどれかには載っているだろう。 「……ふふっ、元軍人の教師に会うのは これで2度目だよ」 「ッ!?」 自身の封印した過去を見透かされて、コルベールは困惑する。なぜ、知っている? 誰かが話したか……いや、この学院で そのことを知っている人間は ごくわずか……それこそ、オールド・オスマンくらいだ。 昨日 召喚されたばかりの ミス・ヴァリエールの使い魔が知っているハズが無い。ありえない。 「あぁ、驚いたかい? ボクは人の心がわかるんだ」 やはり、ただの使い魔ではない。と、コルベールは確信する。 この亜人は、物腰こそ穏やかだが、その態度の裏に 何かを隠している。 だが 少なくとも 今は、この学院の誰かを傷つけようという意思は無いように見える。 しばらくは、様子を見るだけに とどめておくほうがいい。 「だが…今のキミは 平和の中に生きる ただの教師だ。そんなキミが、ボクに何の用だい?」 「……! あ……そ、そう…だったね」 ユベルの言葉で、コルベールは 本来の用事のことを思い出す。同時に 忌むべき過去を再び心の隅に封印する。 「用というのは、君自身と…あと君のルーンについてのことなんだ」 「ルーン?」 「そう。ルーンは契約後に使い魔の体に刻まれる文字で……あっ、君のルーンは額の…その…目の中に刻まれているから、鏡が無いと見えないだろうけど……」 「それで、そのルーンとやらが どうかしたのかい?」 「あぁ、たいしたことじゃないんだがね……君のルーンが珍しいものだから、昨日し損ねたスケッチを……」 と 言いかけて、スケッチをしようにも メモと筆記用具を持って来るのを忘れたことに コルベールは気がついた。 「いや、今 ここで調べさせてもらってもいいかな……?」 コルベールの腕には、ルーンや魔法生物に関する参考書籍が複数冊 抱えられている。 ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔について調べている最中に飛び出して来たためだった。 「ほう、研究熱心だね。昨日は あんなにボクのことを警戒していたのに……」 「警戒か……たしかに そうかもしれない。なにせ、キミは…私も見たことの無い種族だからね」 この亜人からは「魔力そのもの」とでも言うべき特異な性質を感じる。 だが、その禍々しい外見に反して、攻撃性は まったく感じられない。 そのため、昨日 召喚の儀の際、コルベールは 警戒と言うより むしろ困惑していたのだった。 そして 今日になって ようやく、ある程度 ほとぼりがさめ、この未知の生物に対して 彼の探究心・知識欲が首をもたげてきたのだ。 「……ふっ、まあ いいだろう。ところで、ボクも1つ…キミたちに頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」 「私にできることなら、なんでも協力させてもらうよ」 「そうかい……じゃあ、この学校の5階にある 頑丈そうな金属の扉のついた部屋を調べさせてほしいんだ。 ボクは 昨日 あの場所から、ある『道具』の気配を感じた。たぶん、キミたちの知らない…魔法ではない技術によって作られた『道具』の気配をね」 「我々の知らない、魔法ではない技術によって作られた道具……!?」 コルベールの表情が急に明るくなり、目が 少年のように輝く。ついでに頭のほうも、中年どころか老年のように輝く。 「道具の気配を感じる」などという不審な発言は、コルベールの耳に届きはしても 頭の中には残ることはなかった。 「そう……なぜ、この学校に『あれ』が存在するのか……その理由を知りたいんだ」 「なるほど……あの部屋…宝物庫は、学院長のオールド・オスマンが鍵を持っているのですが……」 わずかに悩むが、結局 コルベールは 宝物庫に眠る未知の技術の誘惑に負けた。 「……わかりました! 私が直接、オールド・オスマンに掛け合ってみましょう!」 「ふふふっ……ありがとう、コルベール先生……」 ■■■■■■ 学院長室に向かうあいだ、ユベルは コルベールの怒涛の質問ラッシュに遭っていた。 だが ユベルは、十二次元宇宙に含まれない このハルケギニアの人間の知識に配慮した返答など、用意していないし するつもりも無かった。 そのため、ルイズにしてもコルベールにしても、ユベルの正体については「東方か さらに遠方に生息する未確認生命体」だと結論づけるしかなかった。 「あぁッ!」 道中、ユベルの額のルーンを観察しながら 手元の文献を調べていたコルベールが、突然 声を上げた。 「……どうしたんだい?」 「いや、その…わかったんだ……! 君のルーンの正体が……! 早くオールド・オスマンに報告しなければ……!」 興奮気味のコルベールの説明によると、ユベルの額に刻まれたルーンの正体は「神の頭脳」と呼ばれる伝説の使い魔「ミョズニトニルン」とやらのものらしい。 そいつは、ハルケギニアの魔法の開祖である「始祖ブリミル」が使役した4体の使い魔の1体で、様々な知識と魔道具を駆使して 主をサポートしたのだそうだ。 (知識…道具……情報? なるほど、そういうことか) 今朝 シュヴルーズの授業に出る前 タバサに接触したとき、彼女の持つ能力についての情報が頭に入ってきたのは、 どうやら、その「ミョズニトニルン」とやらのルーンを持ったことによって得られた能力らしい。 これが ルイズの使い魔になったことによる恩恵なら、やはり まだ ルイズは有用だということだ。 そのミョズニトニルンとやらは、あらゆる魔道具(マジックアイテム)を駆使したという。 「人間=道具」と定義するなら、魔力を持った人間であるメイジは 言ってみれば魔力の込められた道具……すなわち「メイジ=魔道具」ということになる。 そんなこんなで、ユベルとコルベールが学院長室の扉の前に辿り着いたとき……そのドアが開いた。 部屋から出てきたのは、眼鏡をかけた 緑色の髪の若い女性。いかにも不快そうな顔で、何やら呪詛にも似た言葉を小声で呟いている。 その女性の心の奥にも 現在進行形の深い闇があることを、ユベルは見逃さなかった。 「ほう……キミも苦労してきたようだね」 「……っ!?」 緑色の髪の女性は、声を詰まらせ その場に硬直する。 扉を開けたら いきなり目の前に見たことも無い怪物……身長2メイルを超える禍々しい外見の亜人が現れたのだから、無理も無い。 「ミス・ロングビル……またオールド・オスマンの……」 コルベールが、つい先程まで学院長からのセクハラに遭っていたであろう女性に 同情の眼差しと優しい声をかける。 「あっ、こちらは ミス・ヴァリエールの使い魔のユベルくんです。おそらく 東方か…さらに遠方に住む未確認の種族だと思われます」 「使い魔……?」 「あぁ……今のボクはルイズの使い魔だ。キミたちに危害を加えるつもりは無いよ」 緑色の髪の女性…ロングビルは、コルベールの隣に立っている亜人を訝しげに見る。 たしかに、害意は無さそうだ。だが、何か……何か引っかかる。 「それで、キミの この学校での仕事は?」 ユベルが ロングビルに問いかける。ロングビルには、この亜人が「この学校での」という部分を強調したように聞こえた。 「わたくし ロングビルは……学院長:オールド・オスマンの秘書を務めております。……あの、それでは、わたくしは これで……」 訊かれたことにだけ答え、早々に この場を立ち去ろうとするロングビル。 こいつにかかわってはいけない。女の勘が、仕事人の勘が、本能が、そう告げていた。逃走のタイミングを見極めるのは得意だった。 だが…… 「ねぇ、ロングビル。ボクたちは これから、宝物庫のことで 学院長に話があるんだけど……興味があるなら キミも同席してみないかい?」 「……!」 ロングビルが足を止め、ユベルを見る。その顔には、ハッキリと驚愕…そして 警戒を通り越して 恐怖に近い色が見てとれた。 その様子を見て コルベールは苦笑する。 「いや、そういうわけにもいかないよ。まず、オールド・オスマンに話を通してからでないと……」 「いえ……! わたくしは…まだ仕事が残っていますので……失礼します…っ!」 逃げるように去っていくロングビルの背中を、ユベルの3つの目が見つめていた。 「それじゃあ、私は オールド・オスマンに事情を説明してくるよ」 と、コルベールがオスマンの部屋に入室し、廊下には 腕を組んで佇むユベルだけが残された。 「ロングビル、か……」 いずれ、ミョズニトニルンとやらの能力を実験するための「魔道具」も必要になるだろう。 汚れ仕事に慣れ 心のどこかに欠陥を持ち なおかつ平和ボケしていない者は、手駒として最適だ。 ■■■■■■ 「成程、君が…ミス・ヴァリエールの使い魔くんか。ふぅむ……たしかに 見たことも無い種族じゃな……長生きはしてみるもんじゃのう」 コルベールに呼ばれて学院長室に入ったユベルを、立派な長い白髭をたくわえた老人……学院長:オールド・オスマンが迎えた。 ユベルは来客用のソファーには座らず、学院長用のデスクに着いているオスマンを正面から 立ったまま見下ろしている。 「それで……君は、宝物庫に用があるということじゃったが?」 「あぁ……あの部屋の中身はキミが管理しているんだろう? だとしたら『これ』に見覚えがあるハズだ」 そう言って、ユベルは 左腕の生体デュエルディスクを展開する。 その変化に、コルベールは小さく感嘆の声を上げ、オスマンは わずかに…だがハッキリと目を見開いた。 「やはり知っているね。ボクの勘が間違っていなければ、あの宝物庫には……」 と、さらに 左腕の生体デュエルディスクにセットされたデッキから カードを6枚程度ドローして、オスマンとコルベールに見せる。 「これと同じような『カード』が、合計70枚 保管されている。そうだろう?」 ユベルの言葉を受けた オスマンは、いつになく真面目な様子で 深呼吸するように長い息を吐いた。 「……なぜ、そんなことが わかるのかね?」 「あの部屋からは、カードの気配がしていた。ボクには わかるんだ」 「そうか……君も その『カード』を持っておる以上、隠したところで無駄なようじゃな。 ……いかにも。君の言うとおり、あの宝物庫には『英雄の宝札』と『召喚の盾』が保管されておる」 「召喚の……? ということは、使い方も知っているのか。それなのに なぜ、あんな場所にしまっておくんだい?」 「……わしらメイジには魔法があるからのう。このハルケギニアでは、あのような『力』は おおっぴらにせんほうがいいんじゃよ。 それに、わしは あくまで使い方を知っているだけにすぎん。残念ながら、わしでは あのアイテムの『力』を完全には引き出せないみたいでのう。 いや、惜しいところまでは行っておった気がするんじゃが……あと一歩 何かが足りなかったのか……」 「……なるほど。キミたち魔法使いが デュエルモンスターズのカードを どう認識しているのか、ある程度わかったよ」 そう言って部屋を出て行こうとするユベルを、オスマンが呼びとめる。 「待ちなさい、ユベルくん。宝物庫に行くつもりなら……わしが付き添おう。ついでにコルペースくんもな」 「コルベールです、オールド・オスマン」 「ほう、よくわかったね。だが、ボクへの警戒を解いてないわりには、ずいぶん素直じゃないか。それとも 監視のつもりかい?」 ユベルの3色の視線を受け流して、オスマンは苦笑する。 「君に宝物庫の壁や扉を壊されては、いろいろと面倒が増えてしまうからのう」 ■■■■■■ オスマンが宝物庫の扉を鍵で開けると、ユベルは 勝手に中へと進んで行った。 そして ついに、物置きのようなガラクタ置き場のような宝物庫の中から 目当ての物を見つける。 「キミたちの言う『召喚の盾』とは……やはり デュエルディスクのことだったのか」 「デュエルディスク……?」 いつのまにかユベルの隣にいたコルベールが、その盾のような腕輪のような謎の物体について 興味津々といった様子で尋ねる。 この宝物庫にあったのは、ごく一般的かつ標準的に普及している 海馬コーポレーション製デュエルディスクだった。 海馬コーポレーションの現社長:海馬 瀬人が開発した、ソリッド・ビジョン システムに対応しているデュエルのための器具。 それが「召喚の盾」の正体だった。 デュエリストにとって カードが剣で デュエルディスクは盾であるとするなら、その名称も あながち間違いではない。 事実、リアルファイトの際に デュエルディスクを盾のように扱う者も少なくないのだ。 ユベルは、コルベールへの説明を軽く済ませて デュエルディスクのほうは彼に預け、カードの気配がする箱を手に取る。 「それで、オスマン。デッキ……『英雄の宝札』とやらは、この中かい?」 「そうじゃ。その箱自体は こちらで用意したものじゃがの」 宝物庫の入口付近にいるオスマンに確認し、箱の中身を検める。 底面が ちょうどカード1枚分程度の面積の箱には、デュエルモンスターズのカードが 積み上げるようにして 表向きで納められていた。 (これは…E・HERO……!?) いちばん上に置かれていた紫色の縁取りのカードを見て、ユベルは動揺かつ狼狽する。 「E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)」とは、ほかでもない十代が 好んで使ったモンスター群だ。 (バカな……! 十代が……!? いや、そんなハズは無い……!) 次から次へとデッキのカードを捲っていく。 ……《E・HERO エアーマン》……《E・HERO オーシャン》……《E・HERO フォレストマン》…… 《黄泉ガエル》……《沼地の魔神王》……《スノーマンイーター》……《フィッシュボーグ-ガンナー》……《デブリ・ドラゴン》…… (……どうやら 十代のデッキではないらしいな……) このデッキは、たしかにパーツとして【E・HERO】の要素を取り入れてはいるが、どちらかというと【水属性】で括ったデッキに近い。 そもそも、E・HERO自体は ごく一般的に市販され 流通しているカード群だ。十代以外のデュエリストが使用していても不思議は無い。 何より、十代のデッキには 十代専用の特別なカード…幼少時の十代本人がデザインした あのカードが入っているハズだ。 ……ひとまずの目的は果たした。もう こんな所に用は無い。 そう判断したユベルは、箱から取り出したデッキを手に持ったまま 出入り口の方へと向かう。 「……さて。それじゃあ、このデッキは もらっていくよ」 「えぇっ!?」「なんじゃと!?」 いっさいの説明を省かれて呆気にとられる オスマンとコルベールを その場に残し、ユベルは颯爽と宝物庫をあとにした。 前ページ次ページ攻撃力0の使い魔
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ゼロの使い魔の二次創作スレ、及びまとめへのリンク あの作品のキャラがルイズに召喚させました 多重クロス。本スレの100スレ突破記念企画です http //noname.mydisk.jp/aniversary/anniversary.html ゼロの奇妙な使い魔 まとめ ジョジョの奇妙な冒険全般 http //www22.atwiki.jp/familiar_spirit/ 新世紀エヴァンゲリオン×ゼロの使い魔 ~想いは時を越えて~@ ウィキ 新世紀エヴァンゲリオンの碇シンジとエヴァンゲリオン初号機 http //www10.atwiki.jp/moshinomatome/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです @ ウィキ STAR WARSのダース・ベイダー http //www33.atwiki.jp/darthvader/ ハガレンのエドがルイズに召還されたようです@まとめサイト 鋼の錬金術師のエド http //www34.atwiki.jp/fgthomas/ ゼロの傭兵 フルメタル・パニック!の相良宗介 http //www31.atwiki.jp/zeronosousuke/ ゼロの保管庫 Wiki 【ゼロの使い魔】ヤマグチノボル総合のSSまとめページ。成人向け注意 http //zerokan.g.ribbon.to/ ゼロ使×型月クロスSSスレまとめwiki TYPE-MOON http //www13.atwiki.jp/zeromoon/pages/1.html ガンダムキャラがルイズに召喚されました@ウィキ http //www8.atwiki.jp/gundamzero/pages/1.html ダイの大冒険のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ http //www33.atwiki.jp/dai_zero/ イチローがルイズによって召喚されたようです@wiki メジャーリーグの(伝説化した)イチロー http //www39.atwiki.jp/ichiro-ruiz/ 社長がゼロの使い魔の世界に召喚されたようです@ ウィキ 海馬瀬人社長と嫁達(および一部の科学の結晶) http //www30.atwiki.jp/shachozero/ 謙虚な使い魔@wiki FF11(ネ実)キャラのブロントさん http //www40.atwiki.jp/kenkyotsukaima/ もしゼロの使い魔の○○が××だったら まとめwiki (非クロスオーバー) http //ifzero2.herobo.com/
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コルベールが中庭で戦っている頃、食堂でも戦いが繰り広げられていた。 不覚にも銃士達は、斬りつけても怯まない、突き刺しても死なない、得体の知れぬメイジを相手にして、混乱の一歩手前だった。 ゾンビを相手したことなど、あるはずが無いのだ、仕方がないのかもしれない。 既に二人の銃士が、ゾンビメイジの捨て身の攻撃で銃士がやられ、床に倒れている。 腹や手足に受けた傷からは、血が流れ続けている…このままでは死んでしまう。 「おああああッ!」 アニエスは、渾身の力を込めて、ゾンビメイジの腕を切り払った。 が、相手も手練らしく、『ブレイド』の魔法を纏った杖でいなされてしまう。 手強い…!アニエスがそう思った瞬間、頭上から六人がけのテーブルが落下してきた。オスマンが投げ落としたのだ。 メイジは咄嗟にそれを避けたが、床が濡れていたために足を滑らせ、一瞬の隙が出来た。 「うおおおあああっ!!」 アニエスは渾身の力を込めて切り払い、メイジの杖をはじき飛ばした、そのまま腰溜めに剣を構え、心臓目がけて突き立てる。 「くっ!」 ドコッ!と鈍い音を立てて、メイジの体を剣が貫く。剣は胸板を貫き骨ごと心臓を貫いた、しかし、剣が抜けない。 そこにもう一人のメイジが、アニエスに向けてマジックアローを放った。 アニエスは剣を捨て、後ろに転がってマジックアローをかわしていく、一発目、二発目、三発目……このままでは回避しきれない。 タバサにもそれを防ぐ手段は無かった、もう一人のメイジは、タバサの魔法で全身を貫かれ、首を半分まで切り裂いたというのに、傷口が瞬く間に塞がってしまう。 この場にキュルケが居てくれれば…! タバサはそう考えて、すぐにそれを否定した。 今まで、ずっと困難な任務を受け続けてたタバサは、他人に頼ることを良しとしない。 巻き添えを作らないために、迷惑をかけないために、タバサは一人で戦い続けてきた。 けが人であるキュルケの復帰を期待するなど、あってはならないことだ…そう思い直して奥歯を強く噛みしめた。 「ラグー・ウォータル…!」 タバサは、氷の壁でメイジの動きを封じるべく、詠唱を開始する。 しかし途中で、空気が異常に乾いていることに気が付く。 原因は、氷の矢の使いすぎだった、空気中の水蒸気を使いすぎてしまったのだ、床に零れた水や氷では、すぐに魔法に利用することはできない。 このままでは相手の動きを封じるどころか、必殺の『ウインディ・アイシクル』も使えない。 六回目! アニエスがテーブルを盾にして、六発目の『マジック・アロー』をやり過ごした頃、胸から剣を生やしたメイジが、落ちた杖を手にしていた。 メイジがアニエスに杖を向け、詠唱を開始する…アニエスは鳥肌を立てた、回避しきれない。 「あ」 奇妙な光景だ…アニエスは頭のどこかでそう考えていた。 メイジの放ったマジック・アローが、ヤケに緩慢な動きで自分へと飛んでくるのだ。 マジック・アローだけでなく、自分の体さえもゆっくりと動いている。 避け、られない。 ジュバッ!と音を立てて、マジック・アローが炎に包まれる。 炎の弾が、アニエスに届くはずだったマジック・アローを消滅させたのだ。 矢次に飛ばされる火の玉は、杖を構えていたメイジの腕に当たり腕を焼き尽くす、すると腕がぼろりと崩れ落ち、剣状の杖が床に落ちた。 「グア…」 見ると、キュルケが杖を構えて、食堂の入り口に立っていた。 キュルケはタバサと相対していたメイジにも炎の弾を飛ばし、タバサを後ろに下がらせる。 「遅れてご免なさい」 そう言って、キュルケがタバサの肩に手を乗せる。 「怪我は」とタバサが聞くと、キュルケはウインクをして答えた。 「私は平気よ、シエスタとモンモランシーが怪我人を治して、すぐにこっちに来るわ。…さっきは情けないところを見せたけど、この”微熱”だって負けていられないのよ」 キュルケはタバサの前に出ると、メイジに向けて杖を向ける。 燃えさかる炎の中で、そのメイジは、にやりと笑みを見せた。 「来なさい、化け物」 ◆◆◆◆◆◆ 「んんぅーっ!」 連れ去られた生徒が、傭兵メイジの腕の中でもがく、口には即席の猿ぐつわを噛まされていて声が出せない。 「くそガキ!じたばたするな!この高さから落ちたい訳じゃあないだろう」 生徒は、自分を抱えているメイジにそう忠告され、下を見た。 メンヌヴィルに先に脱出しろと指示された二人のメイジは、『フライ』を詠唱して空を飛んでいる、下は草原だが30メイル以上の高さがあった。 生徒は息をのみ、黙った。 「ジョヴァンニ、船はまだ見えないのか」 生徒を抱えていたメイジ…ギースがそう呟くと、ジョヴァンニと呼ばれた男は、林の奥を指さした。 「見えたぞギース、あれだ」 林の奥には、黒塗りのフリゲート艦が碇を降ろし、超低空で停泊していた。 ハルケギニアでは、フリゲートという呼称は小型高速の軍艦に用いられるのだが、この船は余計な装備を廃した特別製のもので、軍艦としては格別に小さい。 『ライン』以上のメイジであれば十分に浮かせることが出来る…という訳で、もっぱら特殊条件下での人員高速輸送に使われていた。 本塔を占拠した時、傭兵メイジが出した合図は、フリゲート艦を魔法学院に近い林の中へ下ろす合図だった。 十人ほど人質を取り、船で逃げる手はずだったが、手痛い反撃に遭い生徒を一人抱えるのがやっとだった。 しかし、今回の仕事は『誘拐』ではないので、人質をいつまでも連れて逃げるわけではない、彼らの目的は別にあったのだ。 二人は船に乗り込むと、中で待機しているはずのメイジを探した。 この船で帰還することはできない、せいぜい目立つところを飛んで貰って、トリステインの哨戒の目を引きつけて貰うしかない…。 「おい!船を出せ!仕事は果たしたぞ!注文通り『トリステインの逆鱗に触れてやった』ぞ!」 ジョヴァンニが叫びながら、船室の扉を開けていく、だがメイジの姿は見えない。 貨物室に入って中を見渡す…しかし、誰も居ない。 「おい!何処へ行った!…くそ、なんてこった、あの気味の悪いヤロウ、逃げやがったか」 そう悪態を付くと、ギースが人質を抱えて中に入ってくる。 抱えていた人質を貨物室へ放り込むと、その足に杖を向け短くルーンを唱える、鉄の足かせを『練金』したのだ。 「よし…恨むなよ嬢ちゃん」 「んむーーっ!」 生徒は、身をよじらせて何とか動こうとするが、足かせが重くて自由に動けない、その上腕までも封じられていては、為す術が無かった。 「おい、どうするんだ」 事を見守っていたもうジョヴァンニが、焦りを隠さずに聞く。 「予備に風石があったはずだ、そいつで船を浮かせる。どうせ二時間しか浮けないだろうが十分だ、風任せで動けば囮にはなる」 「このガキはどうする」 「風石が尽きれば、船ごと落ちて死ぬだろうが、万が一救出されたら厄介だ…そうだ、船室を燃やしておけばいい、二時間ばかりこの船が囮にないいんだからな」 「よし、それでいこう」ジョヴァンニが頷いた。 ギースは、貨物室から外に出ると、後部甲板下の船室に入った。 ランプを二つ手に取ると、床に投げ捨てる。 二つのランプはガラス片と油を飛び散らせて散らばった。 杖を振り、油に『着火』すると、燃焼時間を調節するため扉を閉じる。 すぐさま甲板に戻り、ジョヴァンニの姿を探す…甲板には居ない。 碇を上げる余裕はない。碇の根本にあるフックを魔法で外すと、ジャラジャラジャラと鎖が落ちる音が聞こえ、がくんと船が揺れた。 船は静かに上昇を始める…… 「ジョヴァンニ!行くぞ!」 船が浮き始めれば、あとは逃げるだけだ。ギースは姿の見えぬ よく見ると、人質を閉じこめた船室が開いていた。 「あいつめ…また悪い癖か」 ジョヴァンニという男は、メンヌヴィル率いる傭兵団の中でも古株だが、悪い癖を持っている。 メンヌヴィルが人間の…いや、生き物の焼ける臭いが好きでたまらないように、ジョヴァンニは女を陵辱したくてたまらぬといった口だ。 一刻も早く逃げなければならないのに、こんな時まで悪い癖が出たのか…そう考えてギースは声を荒げた。 「おい!ジョヴァンニ、早くしろ」 船室の中では、ジョヴァンニが人質の上着を引きちぎっていた。生徒は胸を露出させ、恐怖のあまり震えている。 「まあ待てよ、男を知らないうちに死ぬなんて可哀想じゃないか」 そう言って下卑た笑みを見せる、が、そんなことをしている余裕は無い。 「時間はない。先に行くぞ」 「…ちっ。まあいいさ。餞別に膜だけは破ってやるよ」 ジョヴァンニは、太さ2サント長さ30サントほどの、鉄で出来た杖を持っている。 それを生徒の眼前にちらつかせ、パジャマのズボンに手を伸ばした。 「んむっ!んむううー!」 自由を奪われた体でありながら、必死で逃げようとする生徒。 それを見てジョヴァンニは舌なめずりをした。 「反吐が出るわ」 と、突然、どこからか女の声が聞こえた。 ジョヴァンニは咄嗟に、誰だ!と叫んだが、その声は床がぶち破れる音でかき消された。 床を破ったのは、銀色に輝く二本の剣であった、それは一瞬で円を描き、床に穴を開けた。 と次の瞬間には糸のようにバラけ、ジョヴァンニの足を掴む。 「うわ、うわああ!」ギースが叫んだ。 奈落の底、と表現すべきだろうか。直径わずか20サントの穴に、ジョヴァンニの体が引きずり込まれていく。 ベキベキベキと不快な音を立てて…それは床板の音か骨の音か、どう考えても後者しか思いつかなかった。 ほんの数秒で、ジョヴァンニの体は消えてしまった。 当たりに飛び散る血飛沫を残して。 「………」 人質となっていた生徒は、その異常な光景に驚く暇もなかった、何が起こったのかを理解することが出来ず気絶したのだ。 「う、うわ、わあああああああああああああああああッ!?」 今度は、ジョヴァンニが叫ぶ番だった、そして、なりふり構わずに逃げた。 一歩、二歩、三…! 三歩目を踏み出したとき、左足の動きが止まった…いや、留められた。 振り向くと、銀色の糸が何本もブーツに絡みつき、まるで大蛇のような力で足を締め付けていた。 「うわっ!ああ、ああわああああ!」 慌てながらも、何とか『ブレイド』を詠唱し杖を刃にした。糸を切断しようと足掻くが、糸は鋼のように硬い上、切っても切っても再生し、足へと絡みつく。 そうこうしているうちに糸は太く絡まり、荒縄のように…そして蛇のように足を登ろうとした。 「ちくしょおおおおっ!」 ギースは雄叫びを上げて、自分の足を切断した。 千分の一秒だけ躊躇したが、それ以上はジョヴァンニと同じ最期を辿ることになる、決断は早かった。 すぐさま、『フライ』を詠唱しようと、したが、糸はもう片方の足へと絡みついていた、中を浮いた体が、ぐいぐいと船室へと引きずり込まれようとしている。 「嫌だ!嫌だ!助けて!助けて!」 「往生際が悪いわよ」 船室の中に引きずり込まれると…そこには、暗くて良くわからないが、女の形をした『何か』が居た。 その『何か』は、背中に長剣を背負い、腕から銀色の糸を生やしていた。 着ている服は血に塗れ、所々を切り裂かれたローブは、もはや服としての機能を成していない。 「ひっ…」 「聞きたいことがあるわ…貴方の依頼主についてね」 「ひっ、ひっ、ひ…」 ギースの頭が急速に冷めていく。 目の前の『何か』は、化け物のような力を持っていても、見た目は『女』だった。 こいつは女だ!どんな化け物であっても、女に違いない!そう自分に言い聞かせて、気を落ち着かせる。 「な、なななななんでもしゃしゃしゃ喋る、だかかかから助けてててててくへ!」 「そう、じゃあ場所を移しましょう?ここじゃあ目立つわ…」 ギースは、必死で声を震わせた、恐怖で震わせるのではなく、詠唱を誤魔化すために声を震わせた。 「(ウル)わわわか(カーノ)った!(ジエー…)ひ、は、おれは(……)」 ぴくりと女の眉が上がる、詠唱に気づかれた?だが俺の方が早い! 「うおおおおおっ!」 杖の先端から、ありったけの精神力を込めた炎が迸る。 炎は、自分の足をも焦がしてしまうだろうが、そんなことはどうでもいい。 とにかく今は逃げるために、生き延びるために、こいつを焼き殺さなければならない。 「うおああああああ!」 叫んだ、そして、力を振り絞った。 だが、その悪あがきは、女が背負っていた長剣によって切り裂かれた。 ごぉうという風の巻き上がる音を立てて、炎が消える。 女は長剣を…片刃の長剣を、ギースの顔に突きつけていた。 「…ひどい炎ね、人質も一緒に焼く気?」 その言葉と共に、剣が首へと差し込まれ…ギースの首は胴体と永遠の別れを告げた。 女は…、いや、ルイズはデルフリンガーを手にしたまま、人質となっていた生徒を抱きかかえる。 そして甲板の縁に立ち、高さを知るために下を見下ろした。 「まずいわね、私、レビテーションも使えないのに…」 すでに高度は百メイルに近い、自分が飛び降りる分には問題ないが、生徒を無事に下ろすことはできない。 ルイズは、後ろめたさからデルフリンガーに話しかけるのを躊躇ったが、生徒の命を助けるためには仕方ないと自分に言い聞かせ、静かに話しかけた。 「…デルフ。私の杖は確か『風のタクト』って言うんでしょう?これを使えば平民でも空を飛べるって言ったわよね、使い方を知らない?」 デルフリンガーは拍子抜けするほどいつもの調子で、かちゃかちゃと鍔を鳴らして答える。 『あー、どうっだったかなー。えーと…そうそう、イミテーションの宝石を回すんだ』 「イミテーション?……ああ、これ」 ルイズはデルフリンガーを口にくわえ、杖のグリップに埋め込まれている宝石を回した。 すると体が軽くなり、ふわり…と浮き始める。 ルイズは宝石を元に戻すと、甲板から地面に向かって飛び降りた。 空中で一度、二度と杖の中に仕込まれている『風石』を発動させ、落下速度を殺していく。 数秒後、どすん、と音を立てて地面に着地した。 衝撃はそれほど強くない…人質となっていた生徒も大丈夫だろう。 ルイズは生徒を適当なところに寝かせ、足かせを引きちぎった。 ちらりと脇を見ると……フリゲート艦で待機していたゾンビメイジの『残骸』が目に入る。 アンドバリの指輪の力でも再生できぬよう、三十六分割されたそれは、文字通りの残骸であった。 目が覚めたときこれを見つけたら、また気絶してしまうだろう…そう考えて、ルイズはクスッと笑みを漏らした。 「!…近づいてくるわね」 遠くから聞こえてきた音に、ルイズは敏感に反応する。 耳を地面に当てると、馬の蹄の音と、人の足音が聞こえてくる…間もなくこの生徒も発見されるだろう。 ルイズはデルフリンガーを鞘に収めると、木々の間をすり抜けて、その場から離れていった。 ◆◆◆◆◆◆ 「厄介ね!」 キュルケはそう叫びながら、宙に浮いた炎の弾を操り、ゾンビメイジの『マジック・アロー』を相殺していく。 シエスタから『波紋』を注ぎ込まれたキュルケは、一時的に精神が研ぎ澄まされているが、それでもコルベールの技を真似することは出来なかった。 コルベールが巨大な蛇状の炎を操るのに比べ、キュルケは直径50サント程の火球を一個操るのがやっと。 アニエスと戦っていたメイジが、炎で焼かれた腕を再生できないことから、ゾンビの弱点が炎であることは理解できた。 水系統の力で動いている以上、水分が必要だと証明されたのだが、それはかえってアンドバリの指輪が持つ人知を超えた力を見せつけているようでもあった。 「ほんとに!厄介、ねっ!」 キュルケの相手は、風系統の高位のメイジらしい、風の障壁を貼りつつ『マジック・アロー』を飛ばしてくるのだ。 キュルケの炎では障壁を越えにくい、超えたとしても、多少の炎ではゾンビを行動不能にできない。 タバサは、オールド・オスマンを連れて待避している。 オスマンの波紋は、リサリサの直系であるシエスタに比べて、はるかに弱い。 メイジの足止めをしたのが一回、ロフトの教師用テーブルを投げ落とす際に肉体を強化したのが二回……それだけでオスマンの呼吸は乱れ始めていた。 そのため、タバサに頼んでオスマンと怪我人を下がらせたのだが…アニエスとキュルケだけでゾンビを相手するのは辛い。 キュルケが攻めあぐねている時、アニエスは激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 ゾンビは杖を燃やされたので、胸に突き刺さっている剣を引き抜いて使っている。 …アニエスの旗色が悪い。 「く!……なんて馬鹿力だっ」 吸血鬼ほどデタラメではないが、ゾンビは人間が備えているリミッターの外れた状態で戦っている。如何に歴戦のアニエスでも限界がある。 「アニエスさん!」 と、背後から誰かが叫んだ。 アニエスはその声が誰なのか解らなかった、ゾンビの剣に絡まったツタを見て…そしてツタに流れる『ライトニング・クラウド』のような閃光を見て、それが『魔法とは違う何か』だと直感的に理解した。 「山 吹 色 の 波 紋 疾 走 !」 シエスタが放った波紋は、剣を握る手に麻痺を起こさせた、その隙にアニエスがゾンビの体を蹴って距離を取る。 ゾンビは、剣を落とし…ふらり、ふらりとした足で少しずつ後ろに下がっていった。 「アニエスさん、大丈夫ですか!」 「礼は言う!だが非戦闘員は下がっていろ!」 「そういうわけには行きません!」 シエスタは半身に構えて両腕を前に出し、腕に絡めたツタを垂らす。 アニエスは何か言おうとしたが…そんな余裕がないと気付き、無言で剣を構えなおした。 だが、ゾンビは襲いかかってくる気配もない。 それどころか、自分の手を見て、周囲を見渡して……まるで迷子の子供のような顔をしてあたりを見回している。 「…様子が変だ」 アニエスが呟いた、その時。 「う、うおおおおおおっ!」 ゾンビが、キュルケが相手しているゾンビに向かって体当たりをした。 ごろん、と床に倒れ込むと、もがくゾンビを取り押さえて、叫ぶ。 「燃やせーっ!早く!俺ごと、やれーっ!」 キュルケはその言葉に、一瞬だけ躊躇いを見せた。 だが、それは本塔に一瞬のこと…杖を二人のゾンビに向かって振り下ろす。 ごうごうと音を立てて二人のゾンビが燃えていく、あたりに焦げ臭い、人間の焼ける嫌な臭いが立ちこめていく……しかし、誰もその場から離れようとしなかった。 皆、じっと燃えていく様子を見つめていた。 しばらくすると、炎が消えて、黒こげになったゾンビ二体が床に残る。 「…………」 もう、どちらがどっちなのか判別できないが、片方のゾンビが声にならぬ声を呟いていた。 皆、自然と耳を澄まし、その言葉を聞いた。 「と りす て いん の とも よ しょう き に も どし て くれた あ り が と……」 その言葉を聞いて…キュルケとは、床に膝をついた。 アニエスは祈るように両手を重ね、握りしめる。 シエスタは、水の精霊に会い、リサリサの記憶の一部を受け継いだことを思い出していた。 曖昧な記憶なので、はっきりと思い出すことは出来なかったが、正気を取り戻したゾンビを見て、ある一つの記憶が鮮明になった。 曰く『波紋は精霊に干渉できる』 ◆◆◆◆◆◆ 人質となっていた少女が衛兵に発見され、魔法学院に運ばれたのを確認してから、ルイズはトリスタニアへと足を向けた。 兵士達の会話の中から、魔法学院に潜んでいた賊が殲滅されたことを知ったので、もはや自分の用は無いと判断したのだ。 ルイズは、いつものように街道を避け、街道沿いの林の中を歩いていた。 「ねえ、デルフ」 『ん?』 デルフがいつものように背中から返事をする。その声はいつもと変わらなくて…変わらなすぎて、かえってルイズを不安にさせた。 「あなた、心を読めるんでしょう」 『前にも言ったけど、多少ならなあ』 「私の心、読んだ?」 『………あー、もしかして、見ず知らずの親子を殺したのを気にしてるのか?』 ルイズが、足を止めた。 背中の鞘からデルフリンガーを引き抜き、銀色に輝く刀身を見つめる。 「…軽蔑した?」 『いんや、別に』 驚くほど軽く、デルフリンガーが呟く。 それでは納得できないのか、ルイズはその場に座り込んで、足下にデルフリンガーを突き刺した。 「どうしてよ、だって、貴方は、武器屋で見つけたとき、私をずいぶん嫌ってたじゃない」 『いや、そうだけどさあ……』 デルフリンガーは言いにくそうに、鍔をカチャカチャと数度鳴らして…ぽつぽつと語り出した。 『俺っちは剣だ。悪いものばかりじゃなくて、いろんな奴に使われて人間も沢山切ってきた。おれは誰に使われるかを選べねー。 でもよう、嬢ちゃんはずっと後悔しっぱなしじゃねーか。俺っちは元から剣として生まれたから、自分じゃ戦うのは嫌だなーと思ってるけど、人を切るのに抵抗もないんだわ。 嬢ちゃんはずっと我慢してるじゃねーか。できるだけ相手を選んで殺してるし、希に我慢できなくなるのも仕方ねーと思うよ。 それに俺、嬢ちゃんはもっと食欲に流されると思ってたんだぜ。でも人間を襲わないようにすげー努力してるのは解る。 親子のことは可愛そうだと思うけどよ、貴族の横暴で似たような死に方してるヤツなんて、数え切れないほど見てきたぜ。 俺はよ、後悔し続けるそんな嬢ちゃんを嫌いになれねえ』 ほんの数分、沈黙が流れた。 ルイズは、そっとデルフリンガーを引き抜くと、その刀身を優しく抱きしめる。 「あんたが、人間だったら良かったのに」 『よせやい』 空を見上げる……月は雲に隠れているが、所々から綺麗な光線が漏れていた。 「この戦争を、終わらせましょう」 誰に言うでもなく…いや、自分に言い聞かせるように呟く。 月を見上げたルイズは、憑き物が落ちたように、穏やかな微笑みを浮かべていた。 To Be Continued→ 70後半< 目次 >72
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前ページ次ページゼロの大魔道士 「で、ですが!」 「そうはいいますが、ミス・ヴァリエール。ゲートから出てきたと思われる以上…」 現在、ルイズは非常に狼狽していた。 召喚に成功したと思えば、当の召喚獣――竜(マザードラゴン)が契約前に逃げ出してしまったのだ。 これは前代未聞の出来事であり、同時に大恥であることは間違いない。 いや、それだけですめばまだいいほうだ。 実家に伝わればヴァリエール家の恥として放逐されてもおかしくはない。 だが、絶望に沈もうとしていたルイズを拾い上げたのは何故か頬を赤らめたコルベールだった。 時間は数分前に遡る。 気色悪い呆け顔で「ぱふぱふ…」とか呟いていた彼コルベールが、ルイズの下に敷かれている人間に気がついたのである。 コルベールの指摘でようやくそのことに気がついたルイズは慌てて跳ね起きた。 生徒の誰かを尻に敷いていたまま放置していたのならばそれは十分に失礼な行為だからだ。 だが、見下ろした顔に見覚えはなかった。 それどころではない、気絶して寝転がっている少年は見たこともない服装をしているではないか。 「…なんで平民がここに?」 ルイズはぽつりと呟いた。 ここトリステイン王国には、決定的な身分差が存在している。 すなわち、貴族と平民だ。 その判別方法は至って簡単で、魔法を使えるものが貴族、そうでないものが平民というもの。 中には例外(貴族から没落したメイジ)などもいるが、この概念はトリステインに住む者ほぼ全てに適用される。 然るに、ルイズの目の前にいる少年はマントこそ着用しているものの、見たことのないデザインの服を身につけている。 そして杖は持っていない。 つまりは、この少年は平民であると判断されるわけである。 「ふむ、どうやらこの少年もサモン・サーヴァントによって現れたようですな」 「え?」 「ミス・ヴァリエール、この少年とコントラクト・サーヴァントを」 「へ、え? えええええ!?」 ルイズは驚いた。 このハゲ教師はいきなり何を言い出すのか。 そもそも、自分が召喚したのはあの神々しい竜である。 間違ってもマヌケ面を晒して気絶している平民ではないはずだ。 「召喚した生物とコントラクト・サーヴァントを行うのが今日の目的です。であるからして」 「ちょ、ちょっと待ってください! 私が召喚したのはあの竜で…!」 「ですが、逃げられてしまったでしょう?」 「う…」 容赦のないコルベールの一言にルイズはグウの音も出ない。 だが、コルベールとしてはこの場における一番の打開策を出したつもりだった。 確かに竜は逃げ出してしまったが、少年も召喚によって現れたことは間違いない。 となると、少年もルイズと契約を交わす資格を持っていることになる。 複数召喚などこれまた前代未聞の出来事だが、始祖ブリミルは四体の使い魔を所有していたという。 これはルイズが規格外の存在であることを示しているわけであり、少年もなんらかの特殊さを持っている可能性は高い。 ならば、この場を取り繕うという意味もあるが、とりあえずコントラクト・サーヴァントを行うのが一番良いはずなのだ。 「あはは、流石はゼロのルイズ!」 「召喚した使い魔に逃げられたと思ったら、平民と契約か!」 確かに…と納得しかけたルイズに周囲の生徒から野次が飛ぶ。 コルベールほど洞察に優れない彼らは単純な事実『竜が逃げた』『残ったのは平民』という二点を認識していたのだ。 「ううっ…」 ルイズはぎゅっと唇を噛んだ。 竜を使い魔に出来ると思っていたのにそれが平民にランクダウンしたのだから無理もない。 だが背に腹はかえられない。 使い魔に逃げられるという失態を犯した以上、もはやコントラクト・サーヴァントを嫌がるという選択肢は取り様がないのだ。 「し、仕方ないわね! アンタで我慢してあげるわ!」 そして時間は現在に戻る。 どうにか心の折り合いをつけたルイズは少年を抱き起こすと顔を近づけ、詠唱を始めた。 と、その時。 「う…あ…?」 少年が目覚めた。 意識はまだハッキリしていないのか、目がキョロキョロと動き回る。 だが、ルイズはそれに構わずに更に顔を近づける。 詠唱が終わり、少年――ポップの視界いっぱいにルイズの顔が映り、そして 「ん…」 契約のキスが交わされた。 「うっぐ…な、なんだ…!?」 ポップは急な痛みに意識を覚醒させた。 周囲の状況を確認するよりも先に痛みが体を駆け巡る。 その痛み、熱といいかえてもよいそれは左手へと集中していく。 そして数秒後、ポップの左手には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。 「な、なんだこれ!? 呪いか!?」 「失礼ね! これはルーン。アンタが私の使い魔になった証よ」 「は? ルーン? 使い魔? 一体何を言って…」 「ああ、ごちゃごちゃうるさい! いい、私は今非常に気が立っているの! ああもうなんでこんな平民と…」 「落ち着きなさいミス・ヴァリエール」 癇癪を起こしかけていたルイズに近づいてきたのはコルベールだった。 (おいおい、冗談じゃないぜ…) ルイズをなだめすかしているコルベールを常識人と見たポップは状況を把握するべく彼に話を聞き、空を仰いだ。 サモン・サーヴァント、トリステイン、ハルケギニア… そのどれもが聞き覚えのない単語ばかりだった。 しかも、話をまとめると自分は目の前のピンクの髪の少女――ルイズというらしい、の使い魔になってしまったのだという。 (本人の承諾なしにそんなこと勝手に決めんなよ…) 既に自分を使い魔扱いしているルイズにポップは溜息をつく。 気になることは二点。 まず、ダイはどうなったのかという点だ。 話を聞いた限り、マザードラゴンはどこかへ飛び立っていったという。 彼女の性質上、人の目に付くような場所に降り立つとは思えないので発見は困難だろう。 (ようやく見つけたっていうのに…) 話を聞く限り、すべての原因は目の前の少女にある。 如何に女の子に甘いポップといえどもそういう事情となればルイズに好印象を抱くのは無理があった。 「何よその目は」 「いんや別に」 「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」 一方、ルイズはルイズで目の前の少年に憤っていた。 彼女本来の目的からすればコントラクト・サーヴァントが成功しただけでも十分満足できるはずだったのだが なんせ竜→平民という格差である。 怒りを覚えるのも無理はない。 かくして、ルイズとポップという少年少女の邂逅はお互い共に悪印象から始まるのだった。 ついて来いとせかすルイズとそんな少女を心配気に見守るコルベール。 そんな二人を見ながらポップはもう一つの懸案事項――これからどうするか、を考える。 とりあえず、ここは見ず知らずの土地であることは間違いない。 目の前の人物たちが精霊や魔族に見えない以上天界ないしは魔界という線はない。 発見されていない大陸、というのも流石に考えづらい。 となると考え付くのは―― (異世界とか? まあ天界や魔界があるんだから可能性はあるんだが…あ、そうだ) ポップはこっそりとある呪文を呟いた。 その呪文の名は瞬間移動呪文ルーラ。 一度訪れた場所に一瞬にして移動できるという高等呪文の一つである。 (…発動しない? いや、発動後にキャンセルされた?) ルーラの発動自体は確かに起こった。 だが、ポップの体はその場から一歩も動かない。 そう、まるで『行ったことがない場所に向けてルーラを唱えた』かのように。 (おれは今確かに昨日のキャンプ場所を想像したはず…おいおい、マジで異世界の可能性が高くなってきたぞ…) バーンパレスのように空にバリアが展開されているわけでもない。 というかそうだとしてもある程度までは移動が行われるはず。 にもかかわらずルーラはポップの体を運ばない。 これが指し示すことはつまり、ルーラの効果が及びようがない場所に自分はいるということになる。 (勘弁してくれよ…) 大魔王と戦うなんていう非常識をこなしてきたポップからしても異世界に飛ばされたという事態は想定外にもほどがあった。 ダイはどこかへ行ってしまった、帰る方法はわからない。 生命の心配こそとりあえずなさそうではあるが、状況は最悪だといってもよかった。 (とりあえず、情報を集めねえと) ダイを探すにしろ、元の場所に戻るにしろ、右も左もわからない場所にいる以上情報は必須である。 長い間旅を続けてきたポップは情報の大切さをよくわかっていた。 そして、情報源として期待できるのは目の前にいる二人の人間であるということも。 (しっかし、契約ねぇ…呪いみたいなもんじゃねえか) 自分をおいてサッサと行こうとするルイズを半眼で睨みつつポップはどうしたものかと頭をひねらせる。 少なくとも自分は同意した覚えがないのに勝手に使い魔にされたのだ。 情報を集めるという目的上、主人だというルイズに友好を示すことはやぶさかではない、可愛いし。 しかし、使い魔というのは御免被る。 いくら可愛い女の子とはいえ、下僕にされるのは嫌だし、自分にはダイを探すという目的があるのだ。 そのためにはフリーな立場に戻らなければならない。 いっそこの場からトベルーラで逃げ出すか? そんな不穏なことを考える。 (待てよ、ひょっとしたら…) ポップの頭に閃きが走った。 現在、自分をルイズの使い魔たらんと示しているのは左手のルーンである。 つまり、逆をいえばルーンさえなければ使い魔契約は撤廃できるということになる。 だが、聞いた話では使い魔の契約が切れるのは使い魔、つまり自分が死んだ時だけだという。 当然、死ぬ気などサラサラないポップ。 (あの呪文なら…) この時、彼が思いついた方法は思わぬ事態を引き起こすこととなる。 だが、神ならぬポップは物は試しとばかりにその呪文を唱えた。 「シャナク!」 前ページ次ページゼロの大魔道士